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今日の長門有希SS

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「おっと」 学校からの帰り道、例のごとく五人で駅に向かっていたのだが、不意に手を握られ声を出してしまった。 「……何やってんのよキョン」 背後からの声に振り返ると、ハルヒは寒冷地のように冷たく、熱帯地方のように湿度の高い目で俺を睨みつけていた。…

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スーパーの前に出店が設置されているのはよくあることだ。小さなバンを改造したようなタイプの店は移動式で、数日だけそこにあってすぐにいなくなる。祭りの時によく見かける、調理場の上をテントが覆ったようなものも移動式だが、車に比べると長く滞在して…

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世の中には様々な迷信がある。酢を飲めば体がやわらかくなるとか、牛乳を飲めば背が伸びたり胸が大きくなるといった話は誰もが聞いたことがあるだろう。これらの迷信には科学的根拠がないものが多いばかりでなく、逆効果になってしまうものもある。 もちろん…

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放課後、全ての授業から解放された俺だが、そのまま帰ることはできない。SOS団の活動は毎日あり、これから俺は文芸部の部室に向かわねばならない。 だが、終わったら即行かなければならないかと言うと、そうとも限らない。掃除当番や用事を済ませてから行…

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「キョン、どうせテレビでも見てるんでしょ? だったら今から駅前ね」 休日の昼下がり、そんな一本の電話で平穏な時間は終わる。確かに今日はやることもなく居間で休日特有の毒にも薬にもならない旅行番組を見て無駄な時間を過ごしている。エスパーか。いや…

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気温が下がると外に出る気力が失せる。買い物も近場で済ませるようになるし、遊びに行く時もアウトドアよりインドアな過ごし方が増えてくる。 しかし、避けられないこともある。例えば学校への登下校がそれだ。まだ気温が上がっていない朝の内に学校までの長…

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平日は日が暮れるまで部室で過ごし、休日はハルヒに連れ回され、そうでない日は長門と過ごす。俺の学生生活はそんな日常を繰り返すことで過ぎ去っていくわけだが、そうでない日も例外的に存在する。 「二人とももう来てたのか」 言いながらやってきたのは谷…

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「有希、ちょっと来てくれる?」 放課後のことだ。テーブルを挟んだ古泉とババ抜きで時間を潰しながら朝比奈さんの淹れてくれたお茶に口を付けていると、ハルヒの言葉が耳に入った。 何の用事があるのかは知らないが活動時間中にハルヒが長門を呼びつけるの…

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放課後、部室の前に到着した俺はドアをノックする。 「ちょっと待ってなさい」 「ああ」 中から返ってきた声に答えて俺は壁にもたれる。今、この中では朝比奈さんの着替えが行われているのだろう。 メイド服で給仕をするように、というハルヒのふざけた言い…

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寒天はデザートなんかに使われる食材だ。大抵どこのスーパーでも売られているが、その形状は様々で、粉末状や棒状や糸状などのものをよく見かける。 形によって多少の違いはあるものの、使い方はあまり変わらない。液体に混ぜてから熱を加えて溶かし、冷やし…

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俺たちが自転車を停めたのは一件のカレー屋の前だった。チェーン店なので特に美味いわけじゃないが、値段が手頃だし昼食にはちょうどいい。 「ここでいいか?」 「いい」 時間が早いせいか店内はそれほど混んでいない。俺たちは待つことなくテーブル席につい…

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前回の続きです。 「よし、これで完成よ」 そのまま部室の前で待つこと十分ほど、ハルヒが満面に笑みを浮かべて部室から出てきた。ハルヒの手にはビニールパイプがあり、その反対側は机にある。 「で、その装置とやらはどういうものなんだ」 「まあ見てなさ…

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全ての授業が終わると俺たち高校生には自由時間がやってくる。谷口や国木田と何分か話していたが、二人は俺の予定を聞くこともなくさっさと帰ってしまったので、俺も鞄を持って教室を出ることにする。 もちろん行く先は文芸部の部室である。顔を出さなければ…

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ぴん、ぽーん。 「いい」 ベルが鳴り、立ち上がりかけた俺は長門の声を聞いて動きを止める。ここは長門の部屋だが、家主である長門が読書中だったため俺が代わりに出ようとしていたわけだ。まあ、手が離せない用事ならともかく、今回は長門が出るべきなんだ…

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私服OKの学校ならともかく、一般的な高校生は制服で過ごす。学ランやセーラーやブレザーなどその学校によって違いはあるが、その格好で登下校することになる。運動部の奴などはジャージで登下校している場合もあるが、それは例外的なものだ。 しかしながら…

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授業の合間の休憩時間は短い。用事を足さなくても、そうでなくてもあっという間に終わってしまうほどのささやかなものだ。 「キョン、ちょっといい?」 「すまんが後にしてくれ」 後ろから聞こえてきた声に俺はそう返す。 「なによ、やることでもあんの?」 …

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「ラーメン屋に行ったら何を食べる?」 ある日の授業中、眠い目をこすりながら必死に板書をノートに書き写していると、後ろからそんな言葉が聞こえてきた。 退屈な授業で、ハルヒがおしゃべりをしたくなる気持ちはわからなくもない。だが、一体何を言ってい…

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カレーは元々インドの料理が由来だが、複雑な経緯を経て日本に伝わり、現在ではもう日本独自の料理と言っても差し支えのないものになっている。肉や野菜などを炒めてから煮込み、カレールーを溶かすだけで作ることができる簡単な料理だ。 もちろんその過程に…

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長門と買い物に行く。 そのこと自体はよくあることというか、日常の中の単なる一コマに過ぎない。人間は毎日飯を食わねばならず、その食材はどこからともなく沸いてくるわけではないので買いに行かねばならないものだ。数日なら平気で日持ちする野菜もよくあ…

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ピー! 長門と二人で河川敷の公園を歩いていると、どこからか笛のような高い音が聞こえてきた。響いて聞こえてきた音は、出所がどこかわからない。 「あそこ」 長門が指差す方に顔を向けると、ジャージ姿の中年男性と毛が長く大きめの犬がいた。犬は飼い主ら…

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カーン! キッチンから金属音が響いてきた。今、あちらにいるのはお茶を淹れている長門だけだ。 「長門さん、大丈夫!?」 俺が動くよりも早く反応したのは朝倉だ。弾かれたようにコタツ机から離れ、立ち上がりながら消えていく。 その手に刃物があったこと…

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涼宮ハルヒは、あまり素行がいい生徒であるとは言えない。学力はトップクラスで運動神経も抜群、その点だけ抜き出せば優等生だと主張することも不可能ではないかも知れないのだが、それ以外が抜群にダメだった。授業中の私語はもちろん、何か思いつけば授業…

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前回の続きです。 「みくるちゃん、生麦生米生卵って三回言える?」 放課後、例によって団長席で偉そうにふんぞり返っていたハルヒは、お茶を置いた朝比奈さんの手を掴んで引き留めるとそんなことを言った。ちなみにまだ古泉は来ておらず、手持ちぶさたな俺…

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登校してから始業まで、授業の合間など、学校ではちょっとした休憩時間がある。合計すればそれなりに長くはなるが細切れにされているので一つ一つは短い。用を足したり授業の準備をしたり昼食を摂ったりすれば終わってしまうようなささやかな時間であり、有…

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「はぁ」 ドアを開けて部屋に入る。急に寒くなってきた外気から逃れ、俺は安堵の溜息をついた。 暖房が付いているわけではないので部屋もそれほど暖かいわけじゃないが、風に吹かれていた外とは大違いだ。人間には衣食住が必要と言われているが、雨風をしの…

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似たようなタイプの店に通っていると同じような法則があることに気が付く。特に食料品売り場が顕著で、店に入ってまず目にするのは果物や野菜などのコーナー、続いて肉や魚、続いて加工品が並んで最後に弁当や総菜という流れが一般的だ。ショッピングセンタ…

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今さら述べるまでもないと思うが俺と長門は交際している。 忘れもしない、最初に長門に会ったのはハルヒに連れて行かれた文芸部の部室でだ。会っていきなり好きになったわけではなく、正直なところ第一印象はあまりよろしくはなかった。 会ったばかりの相手…

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週末になると、俺たちSOS団は街に出る。ハルヒの作ったクジで二組に分かれ、不思議なものを探し出すためだ。それは不思議な出来事や生命体、はたまた物体のいずれかでもいいのだが、未だかつてそれを見つけたことはない。 不思議な存在なんてものは身近に…

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ふと、ジュースを飲みたくなった。 今は放課後で、相も変わらず文芸部の部室で過ごしている。目の前には朝比奈さんの入れてくれた紅茶があり、飲み物に不満があるわけではない。この学校には朝比奈さんに好意を持つ者は多く、その彼女がいれてくれたお茶を残…

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長門のマンション、コタツ机を挟んで向かい合わせに座る俺たちはそれぞれ本を開いている。と言っても、二人とも読書をしているわけではない。長門は例のごとく分厚いハードカバーに目線を落としていたが、俺は開いた本にシャープペンシルを向けていた。 縦横…