今日の長門有希SS

 長門と買い物に行く。
 そのこと自体はよくあることというか、日常の中の単なる一コマに過ぎない。人間は毎日飯を食わねばならず、その食材はどこからともなく沸いてくるわけではないので買いに行かねばならないものだ。数日なら平気で日持ちする野菜もよくあるが、肉や魚も含めて日持ちしない食材の方が多いので、食事のためだけでも頻繁に買い物をしなければならない。
 もちろん俺たちが買うのはそれだけではない。長門は読書が趣味というかライフワークと言ってもいいような状態で、いつも新しい本を求めている。図書館などで借りて読んでいるものもあるがそれだけではカバーできず、頻繁に本屋に行く必要がある。
 他にも服、トイレットペーパーなどの消耗品、電池や電球など、生活していれば様々な物を買わねばならない。だから俺たちが連れ立って買い物に行くことそのものは、今さら敢えて語るまでもないほどのことだ。
 と、俺たちはそんな買い物の真っ最中だった。今日は買いたい物が多かったので、いつも週末に集まる駅のあたりまで自転車で来ている。ここまで来れば俺たちが買うようなものは大抵が手に入る。
「どこから行く?」
「あなたに任せる」
 さて、今日は本や服、最近ちょっと足りないと思っているコップなど買いたいものが多い。持ち歩いても問題ない物からだな。
 昼時だが、朝が遅かったのでまだそれほど空腹ではない。何軒か回ってから飯を食って、それからまた買い物という流れでいいな。
「とりあえず本屋に行こう。食器は最後だな」
「それでいい」
 片手を下ろすと、横を歩いている長門がそっとそれを掴んでくる。そのままの状態で本屋に歩いていく。
 駅のすぐそばの建物に入っている本屋はかなり規模が大きい。この建物自体が大きく色々な店や施設が入っているので、ここだけで用事が足せそうだ。
「今日はどれくらい買うんだ」
「……」
 長門は無言で片手を持ち上げる。俺に向かってピースサインをしているが、もちろん写真を撮れとかそのようなことを要求しているわけじゃない。
「二冊か」
「二袋」
「先に服を見るか」
 服もかさばるので長く持ち歩きたいものではないが、二袋分の本を持ち歩く重さを考えると大したことじゃない。
「……」
 長門は少し残念そうだった。


 服屋と一口で言っても様々な店がある。店によって対象とする年代が違うし、値段もピンキリだ。同じような層を対象にしていても店によって置いてある服の雰囲気が違う。
 と、色々な要素はあるが、大きく二つに分類できる。
 男物か、女物か。
 俺たちは男女で来ているので、例えば長門が服を探している時は俺は探せないし、その逆も然りだ。ま、長門がどのような服を買うのか気になるし、長門だって俺の好みの服を買いたいだろうから、仮に同じ店で探せたとしても自分の服は後回しにするだろう。
「それでいいのか?」
「いい」
 長門の手には上着が一枚とシャツが数枚あった。俺がそれを預かると、長門は自分の鞄の中をごそごそとあさる。
「……」
 長門は鞄に手を入れたまま顔を上げた。何か困ったことでもあったかのように。
「まさか、財布を忘れたとか?」
「そう」
 珍しいこともあるもんだ。俺は持っていた服を長門に預け、自分の鞄を開ける。
「……」
「……」
「忘れた」
「そう」
 金を入れ忘れたとかじゃない、財布そのものを持ってきていなかった。鞄のどこかにへそくり的な金を隠していることもなく、俺も長門も一文無しだ。
「……」
「……」
「取りに帰るか」
「それでいい」
 長門は集めていた服をハンガーなどに戻していく。バーゲンなどではないので、数十分程度ならば品切れになることはないだろう。どうしてもと言う時ならば、朝倉あたりに連絡すれば数分で持ってきてくれるはずだが、そうまでする必要はない。
「じゃ、いったん帰るか」
 俺たちは手を繋いで自転車置き場に戻るのだった。


 その後、まず昼食を食べてから予定していた店を回ってこの日の買い物は無事に終わった。