今日の長門有希SS

 登校してから始業まで、授業の合間など、学校ではちょっとした休憩時間がある。合計すればそれなりに長くはなるが細切れにされているので一つ一つは短い。用を足したり授業の準備をしたり昼食を摂ったりすれば終わってしまうようなささやかな時間であり、有意義に過ごすことは難しい。
 そんなちょっとした時間であるから、最初からそこで何かしようなどとは思わない。その間にどうしてもやらなければならない用事さえ終わってしまえば、あとは授業が始まるまで適当に時間を潰すだけだ。
「二人とも、早口言葉とか言えるか?」
 だから、谷口たちと心底どうでもいい話をしてすごすことが多くなる。
「早口言葉?」
「なんでまた」
 何の脈絡もない提案に、国木田も首を傾げている。
「そうだ」
 早口言葉ねえ。今時小学生の間でも流行っていないだろうな。
「なんだよ、やらないのか?」
「いいや、どうせ暇だしな。何を言えばいいんだ?」
「ま、こういうのは定番からだよな」
 こほん、と谷口は咳払いをする。
「赤巻紙青巻紙黄巻紙。赤巻紙青まきまき――」
「俺もそれと全くタイミングで噛まなければいけないなら、普通に言うより難しいな」
「うるせえな、お題はわかってるだろ?」
「何回言うんだ?」
「そうだな。三回でどうだ」
「赤巻紙青巻紙黄巻紙。赤巻紙青巻紙黄巻紙。赤巻紙青巻紙黄巻紙」
「赤巻紙青巻紙黄巻紙。赤巻紙青巻紙黄巻紙。赤巻紙青巻紙黄巻紙」
 俺も国木田もすんなり言うことが出来てしまった。
「これでいいのか?」
「ちっ。調子に乗るんじゃねえぞ、今日はたまたま俺の青巻紙の調子が悪かっただけだ」
 どんな調子だ。
「ガス爆発の調子が悪い時もあるのか」
「あるぜ」
 あるのかよ。
「あんたら、何やってんの?」
 いつの間にか教室から消えて、いつの間にか戻っていたハルヒが声をかけてくる。
「早口言葉だ」
「早口言葉? またあんたらは子供じみたことしてんのね」
「涼宮、自信がないのか?」
 またこいつは余計なことを。
「やってやるわよ。何を言えばいいの?」
「あ、ああ……そうだな、東京特許許可局。それを三回でどうだ」
東京特許許可局東京特許許可局、東京特許ときゃ局」
「最後、言えてないぞ」
「言えてたわよ。東京特許ときゃ局! 東京特許ときゃ局! 東京特許ときゃ局!」
 悪化している。
「何よ、文句あんの?」
「別に文句はないさ。だがときゃ局ってのは特許をどうするための施設なんだろうな」
「ときゃするに決まってるじゃない」
 そうかい。
「まあいいさ、失敗したからって罰ゲームを決めていたわけじゃないからな」
「罰ゲーム? 面白そうね、あんたが言う時には何か考えてあげるわ」
「やめてくれ」


 その時は授業が始まって終わったが、話はそれだけではすまなかった。だがこの時の俺には今回のどうでもいい話が何を引き起こすかなんて、予想できなかったし、出来るはずもなかった。