今日の長門有希SS

 今さら述べるまでもないと思うが俺と長門は交際している。
 忘れもしない、最初に長門に会ったのはハルヒに連れて行かれた文芸部の部室でだ。会っていきなり好きになったわけではなく、正直なところ第一印象はあまりよろしくはなかった。
 会ったばかりの相手に好印象を持つ程度ならともかく、いきなり好きになる方がおかしいだろうな。
 だがSOS団の中で様々な出来事を積み重ね、いつしか長門は俺にとってなくてはならない存在となっていた。好意を持ちそれを口にしたのは長門の方が先だが、今の関係になったのはある意味で自然な流れだと言える。
 付き合い始めてからそれなりの月日が経過したが、長門に対する感情は変わらない。もちろんケンカをすることがないわけじゃない。だが、多少のことならばすぐ仲直りしてしまうし、どちらかと言えば気持ちは深まっている。
 正直な気持ちを述べるのは照れくさくもあるが、俺は長門を愛している。そう、愛だ。付き合い始めた頃は多少浮ついたところもあったが今は違う。長門と共にいるのが当たり前になり、長門のいない生活など考えられなくなった。世界中のどこを探しても、俺以上に長門のことを考えている奴はいない。いや、何なら俺が長門を愛する以上に、誰かを愛している奴なんていないと言ってもいい。
「異議がある」
 長門はあまり感情を表に出さない。付き合いの長い俺にはなんとなく気持ちを読みとれることもあるが、表情が変わったりしているわけではなく、空気のようなものを感じ取っているだけだ。
 そんな俺にはわかるが、長門は少々立腹しているようだ。
「どうしたんだ?」
「わたしの愛情の方が上」
「ちょっと待て、俺がどれほどお前のことを愛しているのかわからないのか」
「わかる。わたしと同等」
「それなら、お前の方が上ってのはおかしいんじゃないのか?」
「先に告白したのはわたし。その時点から常に同じであれば、総量としてはわたしの方が多くなる」
「いや、人間の愛情はそんな数学や物理学みたいに計測できるものでもないだろ。それに、告白される前からお前に対して好意は持っていたぜ。その点じゃ俺の方が総量が多いと言えなくもないか」
「わたしだってそう。あなたは、わたしが告白に至るまでどれほどあなたを愛していたのかわかっていない」
「なんだ、俺の思いが中途半端だったとでも言うのか?」
「総量で勝っている根拠はまだある。わたしはあなたを六百年ほど愛し続けている」
「ちょっと待て、あの二週間をそれに含めるのは卑怯だろ。それにな、あの時点で俺がお前を愛し続けていたとしたら、その点でお前の方が勝っているというのはおかしい」
「記憶が残っていない場合はカウントしない」
「いいや、そんなルールはない」
「そう」
 長門は少しだけ顔を下に向けて沈黙する。
「それでは、あなたの愛情はわたしと同等かそれ以下と仮定する」
「いや、悪いが俺の方が上だ」
「根拠は?」
「ない。だが俺の方が勝っている」
 このままじゃ埒があかない。水掛け論になっている。
 そういう場合は、第三者に聞くしかない。コタツ机ごしに向かい合っていた俺たちは、くるりと首を回した。
「なあ、どう思う?」
「判定して欲しい」
 そこにいた朝倉は、床に横になったままめんどくさそうに「別に、どっちが上でもいいんじゃない?」と答えた。