今日の長門有希SS

 授業の合間の休憩時間は短い。用事を足さなくても、そうでなくてもあっという間に終わってしまうほどのささやかなものだ。
キョン、ちょっといい?」
「すまんが後にしてくれ」
 後ろから聞こえてきた声に俺はそう返す。
「なによ、やることでもあんの?」
 立ち上がりながら振り返ると、ハルヒはあからさまに仏頂面を浮かべていた。世界のためにもこいつの機嫌を損ねることは可能な限り避けたいものだが、今回ばかりは仕方がない。
「先に手洗いに行かせてくれ、さっきから我慢していたんだ」
「早く帰ってくんのよ」
「ああ」
 さすがに人の生理現象にまでいちゃもんをつける奴ではない。俺は教室を出て、真っ直ぐ手洗いに向かう。
「ん?」
 その途中、俺は珍しい人物を見つけた。いや、廊下で見かけること自体はそれほど珍しくもないのだが、二人揃っていると話は別だ。
「珍しい組合せだな」
 声をかけると、気が付いた二人がこちらに顔を向ける。そこにいたのは古泉と長門だった。
 仲が悪いというようなことは全くないが、こうして二人で話しているところを見かけることはほとんどない。仮にあるとすれば、何かトラブルがあった場合だ。
 教室を出てくる時に見たハルヒの表情が思い出される。もしや、あれが原因だとでもいうのか? それにしちゃ早いが。
「何か問題でもあったのか?」
「いえ、あなたが懸念するようなことはありませんよ」
「……」
 古泉の言葉を肯定するように長門が首を縦に振る。
「だったら、どうして二人でいるんだ?」
「たまたま見かけたので、ちょっと挨拶をしていただけです」
「そうなのか?」
「そう」
 長門が俺に嘘を吐くことはない。俺だって知り合いと廊下で立ち話をすることくらいはあるし、たまたまそういう場に俺が居合わせただけだ。
 この二人が揃っているというだけで深読みをしてしまった。いかんな、すっかりそういう発想に毒されてしまっている。
「ま、何もなかったらいいんだ。」
 それじゃあ、と立ち去ろうとした俺の足はそこから動かせなかった。
「みんな集まって何の相談?」
 背後からそんな声が聞こえてきたからだ。席を立つ時にも聞いたばかりの、聞き慣れた声だ。
「たまたま会っただけだ」
 ネクタイを掴まれた俺は、ハルヒのふくれっ面に引き寄せる。
「嘘おっしゃい。たまたま団員が三人……ううん、あたしを入れて四人も集まることなんてあり得ないでしょ? 何を企んでるのよ、キョン


 それから数分後にハルヒには事情を納得させることができたが、次の休み時間まで用を足すことはできなくなった。