代原

穴埋め小説「ムービーパラダイス」87

その翌日、学校に行くと、予想に反して安藤や尾崎が廊下にいた。 「安藤、どうやって出てきたんだ?」 「出るも何も、我々は警察機構に任意同行して、事情を話して帰って来ただけだ。おかしな事を聞くな馬鹿者」 任意同行ではないし、刑を免れられる事情も無…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」86

「それでは、また来て下さいね」 一通り話を終えた俺達を雪之丞がにこやかに送り出す。イライジャには、どこから取り出したのかわからないが、脳波を感知して動く電動式車椅子をプレゼントしていた。 「気分を出すために、頭をスキンヘッドにすると素敵です…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」85

「冗談はさておき」 一番楽しそうだったのに、椅子に座るとまるで何もなかったかのように話を戻す雪之丞。 「その能力で、このビデオを記録してしまったわけですね」 雪之丞は円卓の上にあった例のビデオを手に取った。 「そうだ……このラバースーツを見た瞬…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」84

安藤の質問に対し、黙り込んでしまうイライジャ。 「今回の件には、貴様の本当の能力が関係あるとしか思えん。それを我々が知らねば、今回何が起きたのか理解することができんのだ」 「仕方あるまい……」 重々しく、イライジャが口を開いた。 「記録するのは…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」83

「早速だが、本題に入ろう」 雪之丞と名乗った人物が最後の椅子に腰掛けたところで安藤が話を切り出した。雪之丞と言うからには、男なのだろうか。 「はい、どうぞ」 にこやかな笑みで、先を促す雪之丞。 「これ――いや、これを置いている店を作ったのは貴様…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」82

ガラガラガラガラ―― 「……………」 ガラガラガラガラ―― 「……………」 ガラガラガラガラ―― 「……………」 ガラガラガラガラ―― 「……………」 どうして、こんなに目を引く事態になったのだろうか。 まず、顔以外をすっぽりと覆うラバースーツ姿の安藤。全裸の上に、ガウンだけ…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」81

ムービーパラダイスとは、あらゆる映像が存在するというビデオショップであり、その店主はイライジャと名乗る黒人男性。 そのイライジャが、どうしてここに? 「まさか、安藤」 関わりがあると考え、拉致してきたとでも―― 「我輩達が正気に戻ったとき、床に…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」80

目を凝らしてみても、薄暗いせいでソファに寝ている人物が誰なのかわからない。 「誰だ?」 「電気をつけるかね?」 「いや、いい」 あそこにいる人物が誰なのか気になるが、気持ちよさそうに失神している岡田君が起きるまで、このまま休んでいるとしよう。…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」79

目を開けると、ガウンを着た尾崎と、ラバースーツを着た安藤が俺をのぞき込んでいた。 「なっ!?」 一瞬、状況がよくわからなかったが、落ち着いてみると、やっぱり状況がよくわからなかった。 あまりに錯乱して、俺は思わず右手を銃に伸ばす。 「痛っ」 が…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」78

「よし、セット完了だ」 一仕事終えたようなすがすがしい表情で、ビデオの接続を終えた安藤。 「お、終わったのかい?」 ニヒルでいながらも、心なしかウキウキした声を出す尾崎。 「うむ」 安藤がビデオデッキの電源を入れると、モニターには青い画面と、右…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」77

テレビの電源が、ブレーカーや何らかの原因で一瞬だけ切れる事がある。そんな時、テレビは一瞬真っ黒になり、またぼんやりと像を映す。 それと似たような現象が、あの巨乳にも起こった。しかもそれは、尾崎がビデオの電源を切り替えた瞬間。 「あ、あの二人…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」76

「待たせたな」 ラバーに光が照り返す安藤に対し、入ってきた尾崎は友好的に手をあげる。 尾崎は四角形の大きな鞄を背負っていた。そして、何やらでかい眼鏡のような器具を頭に装着している。 あれは……確か、テレビが仕込まれた眼鏡のようなもので、歩きなが…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」75

俺はラバーフェチではないので、ラバースーツを着た女に興味はない。そう言っているのに、安藤は人を小馬鹿にするような表情で、俺を指さして笑い続けている。 「ははははははははっ!」 非常に失礼な行為だと思う。 それはそうと、うまく話を持っていけば、…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」74

安藤の目の前にあるビデオデッキが怪しい。それを止める事でどうにかなりそうな気がするのだが、俺達は拘束されていた。 「外れる?」 「ちょっと……難しいナリよ……」 岡田君はもぞもぞと動いているが、外せないようである。 「無駄だ」 椅子に座っていた安藤…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」73

ここは……どこだ? 「ようこそ」 声が響く。 どこからともなく聞こえる声。その声は聞き覚えがあった。 「安藤……か」 体を起こそうとしても、体は何かに縛り付けられたかのように、微動だにしない。 そして、俺は安藤の姿を見ることができなかった。いや、安…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」72

そんなわけで、俺達は安藤の家までやってきた。あたりは薄暗くなり始め、俺の気分を不安にさせる。 「なんか、ずっと前にここに来たような気がするな……」 呟く俺に、岡田君は「今日来たナリよ」と苦笑する。 実際、俺が霊でいた時間は数時間らしい。俺がその…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」71

「安藤がどうしたナリ?」 「俺を撃ったのは安藤だ。間違いない」 そう、そもそもよほどの事がなければ、飢巣憚ごときに撃たれるはずがない。 「安藤が銃を撃つナリか?」 「あ」 確かに安藤は銃を撃つより、バツラを放ってくる事が多い気がする。 しかしな…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」70

「……………」 目を開けると、俺の目の前には岡田君と、燕尾服を着た怪しい女。 「アッサラーム」 俺と目が合うと、その女はどこの口とも知れない挨拶をしてきた。 「何だお前」 「我が名は宗教団体『片山』の教祖、臨民明。よもや忘れたとは言わさんぞ!」 叫び…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」69

俺の体が収容されたメフィスト医院へやってきた。俺は臨から出ており、岡田君と臨、そしてさくらと共にやってきた。 周囲からみると岡田君と臨しか見えないため、和風の青年とタキシードの女という珍妙な組み合わせがやってきた事になる。 岡田君がいるとい…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」68

ダンスの後、再び椅子に座って向かい合う俺と岡田君。先ほどまでまったく制御できていなかった臨の体だが、ダンス以降は落ち着いて使えている。馴染んで来たのか、何かに満足したのかはわからないが。 「結局、どういう事ナリか?」 「どうもこうも――」 俺は…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」67

「呵々々々々々々々々々々!」 唐突に笑い始める臨。 「先ほどまでの私と、今の私は違う」 脱いだショーツを指に引っかけ、ひゅんひゅんと振り回す臨。 「たかが布一枚。されど布一枚。私の全裸と下着姿は、今までとはひと味違うぞ」 刹那、白い風が岡田君の…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」66

ガキィン! 両手に衝撃が伝わる。俺の振り下ろした錫杖が、岡田君の持つ木の棒によって防がれたからだ。 いや、それが単なる棒でない事を俺は知っていた。それを左右に引くと―― キラリ。 一瞬、隙間から光が漏れた。窓から入る太陽光の反射。なぜ反射をする…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」65

俺達は客間に通された。俺達と言っても、事情を知らない者がみれば、臨が客間に通されたというだけの状況なのだが。 「一体、どういう事ナリか?」 切り出した岡田君に対し、臨は目を瞑ったままうつむいている。何かを考え込んでいる、言うべき言葉を探して…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」64

岡田君は俺が動かすドル硬貨に注目していた。 「狐狗狸! 狐狗狸ナリよ!」 こっくり。 ともかく、岡田君の戦意は喪失したようで、日本刀を持った両手をだらりとさげ、口をぽかんと開けながらドル硬貨の動きを見守る。 俺は床を滑らせて、ドル硬貨を扉のワク…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」63

「あれ、あれ?」 指がすり抜ける。あれほど慣れていたはずなのに、俺はまた物体に触ることができなくなっていた。 「どうかしたのかね?」 「どうもしていないナリ! もう帰ってくれナリ!」 臨の質問は俺に対するものなのだが、岡田君は自分に対するものだ…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」62

「本当の名前を言え」 「わかった」 臨を通し、今度こそ俺の名前が岡田君に伝わる。 「嘘つきナリ! 死んだなんて嘘に決まっているナリ!!」 岡田君にはまだ俺の死が受け入れられていないようだ。 「嘘ではない。ここにいるのが何よりの証拠」 「いい加減な…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」61

「話だけでも聞いてくれぬかね?」 しばらく思案した後、扉の向こうの岡田君に臨が声をかける。 「うるさいナリ! 宗教なんて信じられないナリ!」 「我々の教団は――」 「その手は食わないナリ! そうやってまた拙者に壺を買わせるつもりなのはわかっている…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」60

「それで、物体を触れるようになってどうするのかね?」 さくらが服を着直し、ぷりぷりと怒っているのを気にせず、臨が訊ねてきた。 「え?」 得た能力が嬉しくて、無闇に缶やそのへんに落ちているものを動かしていた俺だが、臨の言葉を聞いて硬直する。 そ…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」59

「駄目だ……」 指導する人間が臨に変わったところで、俺がやることは一緒だった。地道に缶を突っつこうとして、すり抜けるという事を何度も繰り返す。 臨の指導は妙なもので、リラックスしろだとか全身の力を抜け、などの当たり障りの無いものや、自分を見て…

穴埋め小説「ムービーパラダイス」58

「こんなところに霊体が――珍しい」 「珍しいのはどっちだ」 振り返り、俺はそこにいた女に答える。 そこにいたのは奇妙な人物だった。燕尾服を着て頭に鉢巻きで蝋燭を巻き付けている謎の女だ。そして僧侶が持つ錫杖。何かいろいろなものを適当にミックスして…