穴埋め小説「ムービーパラダイス」84

 安藤の質問に対し、黙り込んでしまうイライジャ。
「今回の件には、貴様の本当の能力が関係あるとしか思えん。それを我々が知らねば、今回何が起きたのか理解することができんのだ」
「仕方あるまい……」
 重々しく、イライジャが口を開いた。
「記録するのは全てのチャンネルではなく、全ての再生された映像なのだ。再生された映像であれば、放送されている必要などない」
「一体……どうやって?」
「ビデオという機械は映像を電気信号として保存し、再生するときはそれをモニターに送って映像を映し出すものだ。私はあらゆる微弱な電気信号を視覚や聴覚として受信し、保存しているのだ」
 と、イライジャは己のこめかみあたりをトントンと人差し指で叩く。
 頭――
 人間が目でものを見た時、その信号は電気信号として脳に送られ、脳でその電気信号が絵として知覚される。テレビの仕組みというのはそれに酷似しており、その信号を受信する事ができる人間がいたら、その人間はその映像を脳で直接見る事ができる。
 イライジャはそう言う能力を持っており、かつ、それを記録する事ができるという事か。
「つまり、あなたは再生された全ての映像を記録――いえ、記憶しているわけですか」
「その通りだ」
 雪之丞の問いに、静かにうなずくイライジャ。
 それは、とても危険な能力ではないだろうか。あらゆる映像を見る事ができるという事は、世の中のあらゆるところに目があると言う事と似た意味を持つ。秘密を持つ者にとって、イライジャは己の秘密を暴くという可能性を持つ脅威となり、秘密を持たぬ者にとってもイライジャが存在していると知るだけで、正常な生活を営めなくなる可能性がある。
 イライジャにとって、自分の能力を公表することは危険を生み出す。それでもこの場で語った理由は、今回の件の原因を知りたかったからだろうか。
「それ……本当ナリか……?」
 岡田君が目を見開き、イライジャを見つめる。その顔はひきつっており、何か、得体の知れないものを見つめるような目つきである。
「本当だ」
 苦々しく答えるイライジャは、まさにこのような反応を予測していたのだろう。恐怖、嫌悪、迫害。どのように思われても仕方のない事なのだから。
「Usefull! 便利ナリね、超羨ましいナリよ!」
 予想外の反応に、椅子から落ちかけるイライジャ。
「禁止ビデオが見放題ナリ! ハラショー! また店に行くナリよ! おおキャプテン我がキャプテン!」
 狂ったようにテンションが高い岡田君。そんなに嬉しかったのだろうか、円卓の上にのってイライジャに向かってキャプテンキャプテンと連呼する。
「我輩も店に行くぞ! おおキャプテン我がキャプテン!」
「おおキャプテン、我がキャプテン!」
 岡田君に続き、安藤や尾崎も円卓の上に乗り、イライジャにキャプテンと連呼する。
 連呼しながら三人は、俺の顔をちらちらと見ていた。
 ……やれと言うのか。
 確かに円卓の上に土足で上がるという行為はある意味で楽しげだし、今を生きている感じがする。三人を見ていると胸に何かがこみ上げてくる。
 円卓に足をかけ、体を持ち上げた。
「おおキャプテン我がキャプテン!」
 イライジャに向かい、他の三人よりも激しく絶叫した。他の三人が引くほど、狂ったように絶叫を続けていたが、その顔は三人の中で最もすがすがしく感じられた。
 閤骸雪之丞の笑みが。