穴埋め小説「ムービーパラダイス」71

「安藤がどうしたナリ?」
「俺を撃ったのは安藤だ。間違いない」
 そう、そもそもよほどの事がなければ、飢巣憚ごときに撃たれるはずがない。
「安藤が銃を撃つナリか?」
「あ」
 確かに安藤は銃を撃つより、バツラを放ってくる事が多い気がする。
 しかしながら、全身をラバースーツで包むような変態、安藤の他には思い当たらない。
「でも、なんで安藤が……あ」
 何かに思い当たる岡田君。
「ところで、ビデオはどうしたナリか?」
「ビデオ――」
 そう言えばあの時、岡田君と見るために、俺はビデオを持っていた。岡田君が知らないとなると、俺が撃たれてから、岡田君が来るまでの間に消えた事になる。
「……やっぱり、安藤は怪しくないか?」
「確かに……」
 ビデオを見た安藤の様子は異常だった。俺のビデオ欲しさに襲撃する事は、十分に考えられる事だ。
 普段は仲間であると言えども、条件次第では敵に回るような人間である。
「とりあえず、安藤の家に行ってみるか」
「そうナリね……違ったとしても、何か知っているかも知れないナリ」
 ラバースーツを着て屋外を歩く変態など、そうそういるものではない。安藤でなかったとしても、同じく変態の安藤ならば、それが誰か知っている可能性は高い。
「では、行こう。臨とやら、よくわからんが世話になった」
 世話になったのかわからないが、とりあえず礼を言っておく事にしよう。
「大した事ではない、気にするな。礼ならスイス銀行に振り込んでおけ」
「……………」
 病室を出ていく臨を、無言で見送る俺と岡田君。
「では行くか」
「そうナリね」
 意識が戻ったから帰ると、看護婦に言って帰らなければならないだろう。何やら面倒だなと考えながら、先に病室を出ていく岡田君についていく。
「それじゃあ行くぞ」
 無意識に振り返るが、そこには誰も居ない。
「何しているナリか?」
 そんな俺を岡田君は不思議そうな目で見ている。
「いや……」
 もう一人、いたような気がしたのだが、他に人などいない。普段から4人で行動しているため、もう一人誰かがいるような気がしたのだろうか。
「先に行くナリよ。看護婦に言ってくるナリ」
 俺の動きから、起きたばかりでまだ本調子ではないと見て取ったのだろう。岡田君がナースセンター目がけて小走りで走り去る。
「またな」
 なぜかそうしなければ行けない気がして、俺は病室に向かって別れの挨拶をしてから、そこを出発した。