穴埋め小説「ムービーパラダイス」76

「待たせたな」
 ラバーに光が照り返す安藤に対し、入ってきた尾崎は友好的に手をあげる。
 尾崎は四角形の大きな鞄を背負っていた。そして、何やらでかい眼鏡のような器具を頭に装着している。
 あれは……確か、テレビが仕込まれた眼鏡のようなもので、歩きながらテレビを見ることができるという便利なものだ。モニタ自体は小さいのだが、目の近くにあるため、大画面のように体感できるらしい。
 問題は、歩きながら見ているとよそ見をしている状態と一緒なので、非常に危ないという事らしい。
 尾崎のその器具は後ろの鞄からコードが接続されていた。と言うことは、あの鞄に入っているものは、ビデオデッキという事だろうか。
「安藤、電源を貸してもらってもいいかい? 内蔵バッテリーは長く保たねぇんだ」
「適当に使え」
 と、安藤は壁にあるコンセントを指さした。尾崎は鞄をおろそうとするが、一人ではおろせないようだ。となると、どうやって背負ったのだろうか?
「おい、入って来て手伝ってくれねぇか?」
 しばらく難儀したあと、尾崎は自分が入ってきた扉に向かって手招きをする。こちらからは扉がかげになってわからないが、そこに誰かがいるのだろうか。
「……誰?」
 地下室に、水着姿の若い女が入ってきた。モデルのように長身で、巨乳でスタイルが良い。
「巨乳――」
 尾崎が借りたビデオには、巨乳という言葉が書かれていたような気がする。まさか、それと関係があるとでも言うのだろうか。安藤も尾崎も、ビデオと同じタイプの女を連れているのだが、それは今まで俺達が知らなかった人間だ。
 まさか……しかし、そんな――
「っと――おお、そっちを引っ張ってくれ」
 指示に従い、尾崎の背中から鞄を引き剥がし、床に置く巨乳。尾崎はその鞄を開けて、中からビデオデッキを取り出した。
 尾崎は自分の頭の機械にコードが繋がっているビデオデッキから、まるで掃除機からコードを引き出すようにするするとコードを引き出し、コンセントにさし込んだ。
「で、電源を切り替えて――と」
 バチンとビデオデッキのスイッチを切り替えた。


 ぶうん――


「み、見たナリか!?」
 岡田君が目を丸くしていた。
「ああ」
 安藤や尾崎は無反応だが、俺には確かにそれが見えていた。
 尾崎がスイッチを切り替えた瞬間、ぶうんという妙な音と共に尾崎の連れてきた巨乳の姿が消えたかと思うと、透明人間が姿を現すように、再びその場に現れた事を。