穴埋め小説「ムービーパラダイス」69

 俺の体が収容されたメフィスト医院へやってきた。俺は臨から出ており、岡田君と臨、そしてさくらと共にやってきた。
 周囲からみると岡田君と臨しか見えないため、和風の青年とタキシードの女という珍妙な組み合わせがやってきた事になる。
 岡田君がいるということで、俺達は簡単に俺の病室に通された。俺はベッドで眠っていた。ここに来る途中に聞いた看護婦の説明では、俺の体が完全に回復しているというのに、どうしてか俺が目覚めないのだという。
「目覚めないのも当然だ、中身がここに出ていればな」
 病室につき、俺達だけになったところで、臨が呵々と笑う。
「では、俺が入れば目覚めるのか?」
「その通り」
 今まで死んでいたと思っていたせいか、そんなに簡単に生きていると言われても実感がない。
「すいません。私が誤解を招くような事を言ってしまったばかりに……」
 申し訳なさそうな表情を浮かべるさくら。さくらは負い目があるせいか、先ほどからずっと元気がない。
「気にするな」
 そもそも戻りたくないとわがままを言ったのは俺なのだから。
「それでは、戻るかね?」
「ああ」
 先ほどの奇妙な感覚を思い出す。臨の体に入った時、何とも言えぬ嫌な感覚があった。
「安心せよ」
 俺の心を見透かすように、臨がくすりと笑う。
「自分の体に入るのは簡単だ」
 それならば、自分の体に戻るのに問題はない。別に霊体である事に未練はないから。
 誰にも見られない事を利用して覗きなんかもやってみようというお茶目心もあるにはあったが、それほど面白くなさそうなのでやめておく。
「じゃあ、元に戻るか」
 今のままでいる必要など無い。元に戻ったところで、特に問題はないはずだ。
 俺はベッドに上がり、自分の上に腰掛ける。俺の霊体であるところの下半身は、完全にもとの体に重なっている。それだけで足は元に戻ったような気がするが、実際に動かしてみても肉体の方はうごかない。
 このまま寝転がるだけで、俺は元に戻ることができる。
「……………」
 暗い顔をしているさくらの事が妙に気になるのはなぜだろうか?
 しかしながら、このままでいる必要はないのだから、ちょっとコンビニに行くような手軽な気持ちで、自分の体に重なるように仰向けになった。


「―――――」


 眠りにつくような、吸い込まれるような感覚。俺は自分の意識が消えていくのを感じた。