穴埋め小説「ムービーパラダイス」73
ここは……どこだ?
「ようこそ」
声が響く。
どこからともなく聞こえる声。その声は聞き覚えがあった。
「安藤……か」
体を起こそうとしても、体は何かに縛り付けられたかのように、微動だにしない。
そして、俺は安藤の姿を見ることができなかった。いや、安藤だけでなく、何も見ることができなかったのだが。
「こ、ここはどこナリか!?」
近くで岡田君の声が聞こえる。どうやらすぐそばに岡田君がいるらしいが、同じ様な状態らしい。
「おっと、失礼した。目隠しくらいは外してやろう……おい、外してやれ」
ぺたぺたと足音、何かが近づいてくる気配。ごそごそと近くで物音が聞こえる。
「ら、Rubber!? Rubber!?」
ラバー?
岡田君の謎の叫び声。何か考える前に、俺の顔に何かが近づいてくる気配。
ぐにっ。
「ら、ラバー!?」
その感触は、まさしくラバーであった。ゴム手袋のような手が、俺の目にまかれた布をほどいていく。
視界に入ったものは――
「ラバー!」
再び叫んでしまったのは、俺の目の前にラバースーツを着た人間がいたからに他ならない。
安藤かと思ったが、そのラバースーツは安藤にしては一回り小さい。小柄なので尾崎のようにも思えたが、胸や尻が出ていたり、長い髪の毛がスーツから出ていたりして、その体系から中身が女だと言うことがわかった。
それは俺達の知らない女だった。安藤の知り合いでこのサイズの女は髪がこれほど長くはないし、髪が長い女もいるが、その女はけっこうな長身である。全身をラバースーツで覆い、顔をラバーマスクで覆っている女は不気味で、恐怖すら感じる存在であった。
「だ、誰ナリか……」
ちらりと横を見ると、そこには岡田君がいた。岡田君はまるで産婦人科の様な機械に固定され、だらしなく両足を開いていた。絶対にああはなりたくない、という恰好である。
「Oh……」
その時、岡田君がちらりとこちらを見て、何か嫌そうな表情を浮かべた。一体、何が――
「な――」
絶望的な事に、俺も岡田君と全く同じ器具で固定されていた。両手両足を固定され、どうしようもない状態。
まさしくショックであり、俺は頭の中でガーンという音(ピアノの鍵盤を適当に押したような音)が聞こえたような気がした。
「戻ってくるがよい」
遠くで安藤の声が聞こえる。俺達の近くにいたラバースーツの女は、ぺたぺたとそちらの方に歩いていった。
薄暗い部屋を見回してみると、少しはなれた場所に安藤の姿が見える。俺達とは反対を向いて革張りのソファに座っているが、後ろ姿からそれが安藤だとわかった。ラバースーツの女は安藤から少し離れた位置に立っていた。
安藤の前には砂嵐を映したテレビと、ビデオデッキが置いてあるのが見える。
「怪しいナリね」
岡田君が小声で俺に囁く。
「ああ」
根拠などないし、理由はわからない。しかしながら、あのビデオデッキが全ての元凶だと、俺はなぜか確信していた。