穴埋め小説「ムービーパラダイス」62

「本当の名前を言え」
「わかった」
 臨を通し、今度こそ俺の名前が岡田君に伝わる。
「嘘つきナリ! 死んだなんて嘘に決まっているナリ!!」
 岡田君にはまだ俺の死が受け入れられていないようだ。
「嘘ではない。ここにいるのが何よりの証拠」
「いい加減な事を言うなナリ! そうやってまた壺を買わせる魂胆なのはわかっているナリ!」
 岡田君はよっぽど壺の教団に嫌な目にあわされたのだろうか。
「頑固だな……何か良い案は無いのかね?」
 困ったような表情で、臨がこちらを見る。
「中の様子を見てみる」
 俺は扉をすり抜けて家の中に入った。岡田君が複雑な表情で扉の前に立っている。
 信じさせるには、俺が何か物体を動かすのが良いだろう。しかし、見回しても手頃なものが見つからない。
「臨、小銭は無いか?」
「小銭? ――ちょっと待て」
 じゃらじゃらと音が聞こえる。財布を取り出し、中を探っているのだろう。
「ドル硬貨があった」
 なんでだ。
「それを扉の下から入れてくれ」
「わかった――」
 しばしの沈黙。
「どうした?」
「ここの扉は引き戸だ」
 なるほど。引き戸には扉の下の隙間など無い。
「何をごちゃごちゃ言っているナリか! インチキだったら帰れナリ!」
 岡田君が立腹し始めた。まずい、このままだと日本刀が飛び出す。
「郵便受けから入れてくれ」
「了解した」
 郵便受けから臨の指がのぞき、ちゃりんとドル硬貨が玄関の床に落ちる。アメリカ知識はないので、それが何ドルなのかはわからない。
「What!? 何をする気なりか!?」
 怯える岡田君。そりゃそうだ。岡田君には臨が奇人にしか見えないうえに、ドル硬貨を郵便受けから家に入れるという意図がわからないのだから。
「新手の呪いの類ナリか!?」
 まじない。
「君の近くにいるはずの、君の友人がそのコインをどうにかするのだ」
「信じられないナリ!」
 と言いながらも、岡田君は臨が投げ入れたドル硬貨に触れることもせず、黙って見つめている。
 臨の言葉を少しでも信じているのか、それとも得体の知れない臨の投げ入れた得体の知れないドル硬貨が怖いのか。
 ともかく、注目しているのは都合が良い。俺はドル硬貨に指を乗せると、ゆっくりと動かした。


 ……動かなかった。