穴埋め小説「ムービーパラダイス」75

 俺はラバーフェチではないので、ラバースーツを着た女に興味はない。そう言っているのに、安藤は人を小馬鹿にするような表情で、俺を指さして笑い続けている。
「ははははははははっ!」
 非常に失礼な行為だと思う。
 それはそうと、うまく話を持っていけば、いろいろと話を聞けそうな気がする。
「それで、俺達をどうする気なんだ?」
「言っただろう、どうする気もない。ただ、そこで大人しくしておればいい」
「俺からテープを奪って、一体、何をする気だ?」
「そんな簡単な事を……再生するに決まっているだろう?」
 まるで1+1が2だと言うの同じ様な、全く当然の事を言うかのように安藤が答えた。
 確かに、ビデオテープというのは再生するものだが、何も俺を撃ってまでそれを奪って再生する必要はないと思う。
「特別なものというのは、行使されるべきなのだ」
「……は?」
 特別?
「行使されるべきものが行使されていないと言うのは、具合がよいものではない。それが強大であれば、強大であるほど」
 わけの分からない事を言う安藤に、俺は困惑してしまう。
「ナリ……?」
 岡田君も意味が分からないようで、困ったような表情を浮かべていた。
「む――」
 俺達の困惑をよそに、安藤が虚空を見上げる。
「来客か」
 俺達はわからないが、安藤は何らかの方法で来客を感知したらしい。
 その刹那――
「HELP! HELPナリー!」
 大声で助けを呼ぶ岡田君。
「無駄だ、この地下室の音は外には漏れん」
 それを聞いて、岡田君は助けを呼ぶのを諦めた。
 地下室だったのか。
「それに、聞こえてもかまわぬよ」
 安藤は不敵な笑みを浮かべている。
「来たのは尾崎達だ」
 尾崎――達?
 尾崎は誰を連れてきたというのだろうか?
「鍵は開けた。入ってすぐ右の扉をあけ、階段を下りてくるのだ」
 壁にかかっていたインターホンをとって、何やら指示を出す安藤。安藤の言葉を信じるならば、そこには尾崎と誰かがいるのだろう。
「そろそろだな……」
 安藤がうっとりとした表情を浮かべる。いつもと比べて、明らかに安藤はおかしい。まるで何かの禁止薬物でも摂取しているかのような、情緒不安定さが感じられる。
 トントン――
 しばらくして、扉がノックされるような音が聞こえてきた。
「尾崎か?」
「おお安藤、俺達だ。入って良いのかい?」
「入れ」
 妙に威圧感のある金属音を立てて、扉がゆっくりと開いていく。扉からさし込む光が薄暗い部屋の中を照らし、初めて俺はこの部屋がどのようになっているのか把握できた。
 コンクリートが打ちっ放しになった壁で囲まれた部屋。壁中に俺の知っている淫具や、全く知らない器具が金具で引っかけられていて、部屋の反対側には座る部分が三角に角張った座ると痛そうな木馬や、ぶら下がり健康機のような雰囲気だが明らかに人間の腕を吊すような器具などが置いてあるのが見える。
 そして、女と安藤が光を受けてテカテカと黒く輝いていた。