穴埋め小説「ムービーパラダイス」86

「それでは、また来て下さいね」
 一通り話を終えた俺達を雪之丞がにこやかに送り出す。イライジャには、どこから取り出したのかわからないが、脳波を感知して動く電動式車椅子をプレゼントしていた。
「気分を出すために、頭をスキンヘッドにすると素敵ですよ。プロフェッサーXみたいで」
 おかしな提案をする雪之丞を放置し、帰ろうとする俺達。イライジャは電動車椅子の使い方を雪之丞に訊ねているので、俺達とは別行動になる。
「そうそう、あの店はたたみますよ。同じ街にイライジャ氏がいるのでは、レンタルされるたびに同じ事が起きても困りますからね」
 そう言う事情が無くても、閉じるべき店のような気がしないでもないが。実体化されなくても、あのビデオは危険すぎる。
「またどうぞ」
 恐らく二度と来る事もないだろう工房から、俺達は外に出た。
 すると――
「動くな!」
 外に出た俺達は、いきなり警官隊に囲まれていた。警官隊は遠巻きに俺達を囲んでいて、ジュラルミンの盾を持った機動隊がその先頭に立っている。
 銃こそ向けていないが、まるで凶悪犯がいるかのように、緊迫した空気が漂っていた。
「な、なんで――」
 一瞬だけ戸惑ったが、自分達を見回して、俺は原因を察した。
「貴様ら、我々に何の用だ! 我々が何かしたとでも言うのか!」
 叫ぶ安藤は、ラバースーツ。
「そうだぜ、俺達にはやましい事なんて何もねぇ」
 ニヒルに言う尾崎は、全裸の上にガウンだけを羽織った姿。そして、建物の前には座席が三角にとがった、例の木馬が置かれているのだ。
 ここに来る途中で通報されたのだろう。そして、こんなに目立つ木馬が建物の前にあれば、俺達の居所は簡単にわかるという状況。
 しかも、俺達――いや、安藤は警察にマークされている重要人物。警察にとって、安藤は逮捕できるチャンスがあれば逃したくないのだろう。
「安藤、尾崎、その格好では言い逃れは無理だ。大人しく連行されてくれ」
「何を――ぐっ」
 油断しているすきに、安藤と尾崎の後頭部を銃の握りで殴り、気絶させる俺。ライフルなら銃柄と呼ばれる部分である。
「じゃあ、そう言う事で」
 普段着の俺と岡田君は、二人を警察に突き出すと、そのまま帰る事にした。