穴埋め小説「ムービーパラダイス」81

 ムービーパラダイスとは、あらゆる映像が存在するというビデオショップであり、その店主はイライジャと名乗る黒人男性。
 そのイライジャが、どうしてここに?
「まさか、安藤」
 関わりがあると考え、拉致してきたとでも――
「我輩達が正気に戻ったとき、床に倒れておったのだ」
「え?」
「我輩もまだどういう事かわかっていない。イライジャの意識が戻り次第、事情を聞くつもりだ」
 そう言ってはいるが、安藤はまるで何かを知っているように見えた。いや、何かを予感しているとでも言うべきか。
「イライジャが起きたら教えてくれ」
 再び、俺は分娩台に横になった。


「おい、起きたぞ」
 どうやらうたた寝していたらしい。目を開けると、いまだにラバースーツ姿の安藤が呼んでいた。その横には岡田君やガウン姿の尾崎も立っている。どうやら消耗しているのは俺だけらしい。
 体を起こすと、イライジャが椅子に座っていた。前に見たときと同じように、足をギプスで固定しているのがわかる。
 自分の足で歩ける状態でないのに、イライジャはどうやってここに来たのだろうか。
「ここは……どこかね?」
 目を覚ましたイライジャは、地下室を見回して怪訝な表情を浮かべている。
「自分の意志でここに来たのではないのか?」
「私は店にいたのだが――」
 いつもの不機嫌そうな表情で考え込むイライジャ。
「では、これを作ったのは貴様ではないのか」
 と、パッケージに入ったビデオテープを3つ取り出す安藤。それらは、安藤や尾崎をおかしくした、例のビデオだ。
「私が作ったわけではないが、知っている。それが再生されたのは――」
 何かを思い出すように虚空を見つめるイライジャ。
「恐らく、昨夜だな」
「正解だ」
 イライジャの言葉に、深々と頷く安藤。
「尾崎、昨日の夜で間違いないな?」
「俺?」
 いきなり話を振られて少し戸惑う尾崎。
「おお、家に帰ったらすぐだ」
「で、このテープを再生したらどうなった?」
「信じられねぇかも知れないが、テレビの中からその女が出てきたぜ」
 尾崎が指さしたのは、巨乳のパッケージのビデオテープ。
「我輩も、このラバースーツが出てきた」
「テレビから、出てきた――」
 険しい表情を浮かべるイライジャ。
「そ、そんな事が本当に……?」
 そう言う結論には達していたのだが、実際に話を聞いても、岡田君は信じられないらしい。
 かくいう俺も、まだ信じ切れてはいないのだが。
「冷静に考えたら、そのような事はあり得ぬ。恐らく、このビデオ自体は、そのようなものではないのだろう」
 安藤が難しい事を言う。安藤はいつも物事の真相を予測して話しているのだが、俺達にはそれを告げないため、安藤は訳の分からぬ小難しい事を話しているように感じるのだ。
「あの女達が出てきた理由は、イライジャ、貴様にあると思われる」
「私に――?」
 ぎろりと安藤を睨むイライジャ。恐らく本人に睨むつもりはなく、ただ安藤を見ただけなのだろう。
「我輩はこのビデオを作った者に心当たりがある」
「心当たりって、あのビデオ屋の老人じゃないのか?」
「違う」
 口を挟んだ俺の言葉を即否定する安藤。
「恐らく店長自身、作られたものだ。いや、あの店自体が創造物なのだろう」
「安藤、何を言っているのかわからないナリよ! 説明してくれナリ!」
 一人でどんどんと話を進める安藤についていけなくなったらしく、岡田君が非難の声をあげる。表情を見る限り、尾崎やイライジャもよくわかっていないようで、俺もよくわかっていない。
「そうだな」
 それに気づいて苦笑する安藤。
「説明する為には、これを作った者のところに行くのが良かろう」
「おい、そいつがどこにいるか知っているのかい?」
「うむ。ここからそう遠くはない、皆で行くか。イライジャもいた方が都合が良いから、一緒に来てくれぬか?」
「しかし、私はこの有様だ」
 と、イライジャは自分の足に装着されたギプスを示す。車椅子がなければ、自力では動けないのだろう。
 巨漢のイライジャを背負っていくのも大変だ。店から車椅子を持ってくるのが良いのかも知れないが、それだと時間がかかる。
「仕方ない、アレに乗せていくか」
 と、安藤はアレとやらを指さす。
「アレって……えぇっ!?」
 安藤の指さしたものを見て、俺は思わず大声を出してしまった。
「他にないのだ、仕方あるまい」
 とは言え、あんなものに乗せて行くというのは……
「私はかまわぬ」
 平然と言うイライジャ。
「本人がいいのなら、それで良いじゃねえか。急ごうぜ」
「そうナリね。Hurryナリよ」
 尾崎も岡田君も、一刻も早く真相を知りたくて、そんな事はどうでもいいらしい。
「マジか……」
 俺だけが戸惑う中、イライジャをそれにのせて、俺達はビデオを作った人間の場所に行く事にした。