穴埋め小説「ムービーパラダイス」82

 ガラガラガラガラ――


「……………」


 ガラガラガラガラ――


「……………」


 ガラガラガラガラ――


「……………」


 ガラガラガラガラ――


「……………」
 どうして、こんなに目を引く事態になったのだろうか。
 まず、顔以外をすっぽりと覆うラバースーツ姿の安藤。全裸の上に、ガウンだけを着てマフィアっぽく葉巻を吸う尾崎。俺と岡田君は普段着。
 それだけでも目を引くのに、安藤の引っ張っているものが異常だった。
 安藤の持つ手綱の先にあるのは、座る部分が三角にとがった木馬だった。その上にコート姿のイライジャが座っている。
「座布団を置いても少し痛いのだな」
 尻の下に座布団を置いて座っているのだが、さすがに尻が痛いのだろう。だったら両手も使って体重を支えれば良いと思うのだが、両手は安藤によって後ろ手に縛られていた。
 安藤が言うには、三角木馬に乗せた人間が少しも拘束されていないのは美しくないのだそうだ。本当は全身も縛り上げたいと言っていたが、俺達は後ろ手に手首を縛るだけで我慢させた。
「痛みに身を委ねるがいい」
「ふむ」
 目を細め、遠くを見つめるイライジャ。痛みに身を委ね始めたらしい。
「ほほう、これはなかなか……」
 やめんか。
 ともかく、そんな奇抜な集団であるので、通行人は驚いて目をそらしたり道をあけたりしていた。道をあけられると歩きやすくなるので、その意味では都合は良かった。
「ついたぞ」
 到着したのは、石のようなよくわからない素材で作られた、ゆるやかな丸みを帯びた建物だった。なんとなく、それはかまどに似ていた。
 初めて来た場所だ。尾崎や岡田君も、ここには来たことがないに違いない。
「ここにいるのが、ビデオを作った奴ってわけか?」
「恐らくはな。奴の話を聞いても意味がわからぬだろうから、余計な口出しはするな」
 安藤の知り合いならば、かなりの奇人でもおかしくない。ここは確かに大人しくしているべきだろう。
「では、入るぞ」
 安藤は木製の扉に手をかける。鍵がかかっていなかったらしく、木製の扉は軋む音を少しだけたててゆっくりと開いた。
 建物の中は円形の部屋だった。部屋の真ん中には円卓が置かれていて、木製の丸椅子が置かれている。
「遠慮するな、入れ」
 安藤はそのまま、中に入っていってしまう。
「肩につかまるナリよ……」
「俺の肩も貸すぜ」
 入り口に木馬が通らないと思われるので、尾崎と岡田君がイライジャを木馬からおろしている。
「手伝ってくれナリ」
「あ、ああ」
 しばらく建物の中を見ていたが、イライジャをおろすのが大変そうなので、俺も手伝うことにした。
「どうしたんだい?」
 手伝いながら考え事をしている俺に、尾崎がニヒルに問う。
「部屋の中で、気になるところがあっただけだ」
 しかし、それほど気にする事はないだろう。円卓の横に置いてあった椅子が6個――俺達と、その建物の主の数と合致していたなんて。
 岡田君が肩を貸し、イライジャを建物の中に運び込む。安藤が当然のごとく椅子に座っているので、俺達も円卓につく。
「我々が来ることはわかっていたのだろう、とっとと出てこい」
「はいはい、相変わらずせっかちですね……」
 部屋の奥、壁で区切られた向こう側から、男とも女とも聞こえる声が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
 現れたのは、髪の長い、男とも女ともつかない容姿の人物だった。艶やかな長い黒髪で、まるで作り物のように完璧な整った顔。
「この工房の主、閤骸雪之丞と申します」
 その性別不詳の人物は、俺達に向かってぺこりと頭を下げた。