穴埋め小説「ムービーパラダイス」68

 ダンスの後、再び椅子に座って向かい合う俺と岡田君。先ほどまでまったく制御できていなかった臨の体だが、ダンス以降は落ち着いて使えている。馴染んで来たのか、何かに満足したのかはわからないが。
「結局、どういう事ナリか?」
「どうもこうも――」
 俺は今までの顛末を説明する。
「家を出たら、飢巣譚に――」
 どうしてこのような状態になったのか、
「地下鉄のホームで――」
 どうやって、霊体でありながら物体に触れる術を身につけたのか、
「そしたら、沖から朱印船が――」
 そして、身につけた能力を自慢するため、ここに訪れたのだと説明する。
 その結果、岡田君の答えは。
「信じられないナリ」
 話を全て聞いても、納得できないというのか。俺はわかりやすく説明し、臨の中にいるのが俺だと理解したようだったのに……
「どこが信じられないんだ?」
「死んで、ここに来たというところナリよ」
 全部じゃん。岡田君の言った場所は、俺の話全てを表現してはいないだろうか。
「でも、俺は確かにここに来て――」
「それは信じてるナリよ」
 じゃあ、何を信用していないというのだ?
「あの、ご主人様……」
 今まで黙って様子をみていたさくらが、遠慮がちに口を開いた。
「どうした?」
「ひょっとして……勘違いしておられませんか?」
「勘違い?」
 そう言われてみると、根本的な部分で何か、見落としているところがあるような気がする。それも、この女に関して。
 岡田君がさくらと話す俺を不思議そうに見ているが、気にしないで話を進めよう。
「一つ、確認しよう」
「はい」
 最初、俺はこいつに問うた。
「さくら、お前は死神みたいなものか?」
「そんな感じです」
 ここは、もう少ししっかりと問うべきだったのかも知れない。
「死神か?」
「違います」
 では、臨の言う案内人とやらか。
「俺をどこかに連れていくと言ったな?」
「はい」
「天国ではないと言ったな?」
「そうです」
 そこで、俺は地獄だと思ったのだが――
「それは地獄か?」
「違います」
 なんとなくわかりかけてきた。俺は、ひょっとしてとんでもない勘違いをしていたのではないだろうか。
「では聞こう」
「なんなりと」
 俺の態度に何かを感じ取ったのか、さくらは姿勢を正す。
「俺をどこへ連れていこうとしていた?」
「在るべきところ――本来の肉体のあるところへ」
 では、やはり。
「俺は死んでいなかったのか」
 さくらは、一呼吸置いてから、「はい」と答えた。