穴埋め小説「ムービーパラダイス」80

 目を凝らしてみても、薄暗いせいでソファに寝ている人物が誰なのかわからない。
「誰だ?」
「電気をつけるかね?」
「いや、いい」
 あそこにいる人物が誰なのか気になるが、気持ちよさそうに失神している岡田君が起きるまで、このまま休んでいるとしよう。消耗していて、俺はまだ休んでいたい気分だった。
「わ……What?」
 しばらくして、目を覚ました岡田君がきょろきょろと地下室を見回す。
「起きたかね」
「あ、安藤! 尾崎!」
 岡田君は、主に二人の首から下を見て絶句する。いい加減に着替えれば良いと思うのだが、二人はいまだに、ラバースーツと全裸にガウンという姿だったのだ。
「二人とも……元に戻ったナリか?」
「うむ」
「もうあの女達はいねぇぜ」
 と言うことは、あそこに寝ているのは先ほどの女ではないという事か。
「そうそう岡田君、俺が銃を撃ったらしいんだけど、覚えてない?」
 岡田君は少しだけ考えてから、
「Horrorナリ! Horrorナリ!」
 俺を指さし、狂ったように泣き叫ぶ。
「Horrorナリ! Horrorナリ!」
「ど、どうしたんだい?」
「しっかりせんか」
 尾崎と安藤の言葉も聞こえず、泣き叫び続ける岡田君。
「仕方あるまい」
 ため息をつくと、安藤はラバースーツの懐から白いハンカチを取り出し、岡田君の口に押しあてた。
「Horr――ムグ!」
 巻き舌の発音の途中で口を押さえられた岡田君だが、しばらくもがいてから、がくんと脱力した。気絶したのだろうか。
クロロホルムか?」
「いや」
 安藤はにやりと笑う。
「幼稚園児のハンカチだ」
 よくみると、岡田君は失神したのではなく、顔をゆがめてヘラヘラと笑っていた。意識を失っているわけではなく妄想しているだけなのだろう。
 ともかく、先ほどの話を聞いてもまた発狂するだけかも知れないので、岡田君にはもう聞かない方がいいだろう。これで真相が闇の中となったが、まあ、知ったところで俺が億万長者になるわけでもないので、気にしないことにする。
「安藤、電気をつけてくれないか?」
 岡田君も起きたので気兼ねする必要はない。
「うむ」
 安藤が携帯電話を操作すると、部屋がゆっくりと明るくなっていく。どこに電灯があるのかわからないが、その出力をあげたのだろう。
 ぼんやりとソファに座る人物の姿が見えてくる。それ以上に、部屋の様子が見えてくる。
「……………うわ」
 とりあえず、部屋を観察すると何とも言えない気分になりそうなので、俺はソファで寝ている人物に視線を戻す。
「な、なんで――?」
 ソファに寝ていた人物を見て、俺は困惑した。
 そこにいたのは、俺が予想もしていなかった人物。コートを着た、大柄な黒人の男。
「イライジャ……」
 ムービーパラダイスの店長、イライジャがそこに寝ていた。