今日の長門有希SS

 退屈な授業が終わって、本日の学生の本分も無事に終了した。学業を主とするならこれからの時間は従であるわけだが、ハルヒならばこちらがメインだと言いかねない。
 まあ、俺にとってもSOS団での時間がそれなりに重要なものだというのは事実である。退屈でつい居眠りをしてしまう事もある授業に比べれば、ただ何となく文芸部の部室で長門と過ごしたり、退屈しのぎにボードゲームをしたり、メイド姿が板に付いている朝比奈さんのお茶を飲んでいる時間は、特に何もしていないはずなのだが幾分か有益な時間のように感じられる。
 ともかく、通い慣れた廊下を歩いて部室に向かう。学校がある時はよっぽどの事が無ければSOS団の活動が休みになる事は無いので、放課後は教室を出ると玄関ではなく部室のように自然と足が向くようになっている。習慣とは恐ろしいものだ。
 そして見慣れたドアの前に到着。ドアを開け、
「――」
 俺はその場で硬直してしまった。部室の中には着替えをしている女生徒がいたからであり、その女生徒はドアに背中を向けているのだが体格などから朝比奈さんだと容易に想像出来、その豊満な胸を包む下着の後ろのヒモが鮮やかに目に焼き付き、そう言えば大きな胸だとブラの種類が少なくて可愛い物が無いと谷口が言っていたような気がするが朝比奈さんのブラって可愛らしい物が多いよな、いや、そんなに何度も見た訳じゃないんだが。
 しばらく気が動転していた俺だが、こうしてドアを開けていると朝比奈さんの着替えシーンをドアの隙間から誰かに見られてしまう可能性がある。慌てた俺は謝る事も出来ずにドアを閉めてしまった。
 ドアを閉めて、俺は心臓が早鐘を打っているのに気がついた。俺は息を荒げないように静かに深呼吸するが、視界でもぞもぞと動いている姿を見ると鼓動も呼吸もペースが上がって行く。衣擦れの音がそれを加速させる。
 ……って、どうしてドアを閉めたのに朝比奈さんが着替えをする姿が見えるんだ。俺は特別な能力を持つ他の面々とは違い、SOS団の中では唯一の一般人だったはずだ。超能力は古泉の専売特許だし、いや、古泉だってドアを透視する事は出来ないだろう。
 可能だとすれば長門だろう。長門ならば今現在この校内にいる全ての人物がどこで何をしているか把握できても不思議はないし、ドアの向こうの着替えをのぞき見る事が出来ても不思議はない。
 しかしながら、俺はそれらの能力を身につけた訳ではない。俺が朝比奈さんの着替えを見る事が出来ている理由は非常に簡単な事。
 朝比奈さんと俺はドアを隔てていない位置にいる。つまり、俺は焦りすぎたせいで、ドアを閉めた時に部室の中に取り残されてしまった。
 朝比奈さんがドアを開閉する音に気付いていないはずはない。もしかすると、俺が声を発せずドアを開け閉めしたので、ここにいるのが長門だと思っている可能性もある。
 となると、今の状況は非常にまずいのではなかろうか。着替えている女性と部室の中で二人きり。長門にこの状況を知られると男性機能を破壊されるかも知れないし、ハルヒに知られても朝比奈さんをどうこうしたと思われて何をされるかわかったもんじゃない。
 もちろん朝比奈さん本人に知られるわけにもいかない。最初の時点で謝っておけばよかったのだが、気が動転して無言でドアを閉めてしまった時点でそれも出来なくなってしまった。
 まずいどうすればいいんだ。
 どうするべきかわからずうろたえていると、更にこの状況を複雑にする事が起こった。


 トントン――


 誰かのノックの音が部室に響いた。