今日の長門有希SS

「なんだこりゃ」
 ドアを開けて部室の中を見た瞬間、俺は思わず声を出していた。
 床に散らばっているのは、大量の野球ボールの他にはバットやグローブ。ロッカーの横に空のダンボール箱が倒れているところをみると、昼休みから放課後の間に落ちてしまったのだろう。
 片付けるのが面倒だと思いつつも、誰かが下にいる時に落ちたわけではなかった事にほっとした。長門ハルヒならうまく回避すると思うが、朝比奈さんなら大怪我してしまうような気がする。古泉は、まあ、大丈夫だろ。
 ともかく、俺は部室に入ってカバンを置くと散らばったボールをかき集める。乾いた泥がついたボールを拾いながら、その泥が床に散らばっているのに気付き、俺はため息を一つ。面倒だが、拾い終わったら床の掃除もしなけりゃならない。
 そしていくつかかき集めた後、それを放り込もうとダンボール箱を立てると、ぐにゃりと崩れた。箱が破れたせいで上から落ちたのか、落ちた衝撃で破れたのかは知らないが、ともかくそれは収納する事の出来ない状態になっていた。
「あんた、何やってんの?」
 ハルヒの声が聞こえた。ドアを開けた状態で止まっているハルヒは、両手に野球ボールを抱えた俺を見て、怪訝な表情。
 別に俺だってやりたくてやってるわけじゃない。棚から野球セットが落ちたのを片付けてるんだよ。でも、ダンボール箱がお亡くなりになっていてだな、どうしたもんかと思案していたわけだ。
「そのまま五分待ってなさい」
 とだけ言い残し、ハルヒはカバンも置かずに去って行った。
 やれやれ。俺はこのまま、ハルヒが戻るまでボールを持って立ってろってのか?


 しかし、なんだかんだでハルヒは有能である。実際、あれから五分きっちりでどこからか同じくらいのサイズのダンボール箱を調達してきた。
 ハルヒが持ってきた箱に片付けていると、後からやって来た他のメンバーも加わって野球道具を片付ける。
「あ、そうだ。せっかくだから他の荷物も整頓しましょうか」
 野球道具を箱にしまったところでハルヒがそう宣言した。
 この部室には、雑然とダンボール箱などに放り込まれて収納されているものが多い。確かに、この機に整頓して置いた方が、後々の為になるだろう。
 そのようなわけで、俺達はそれぞれ自分のよく使うものを中心に部室を片づける事になった。
 ゲームが雑然と詰まっている箱には、一度やっただけで二度とやらないと思ったゲームや、今までやったことのないゲームなどが大量に入っている。古泉がちまちま持ってきているせいだが、ここらで一部のゲームには戦力外通告をして、お帰り頂いた方がいいだろう。
 恐らくもう使わないであろうゲームを分けていると、小さいダンボール一個分くらいになった。まあ、持って帰るのは古泉だから問題ないだろう。
「これはもうやらないんですか?」
 古泉が指し示しているのは、プレートをパズルのように動かし、時計のオモチャのコースを作るボードゲームだ。珍しくそれをやった時はハルヒが参加していたため、プレートに指を挟んで内出血が出来たのがちょっとしたトラウマになっている。
「持って帰れ」
「おや、残念」
 名残惜しそうに、持って帰る箱の方にしまう。そう言えばこいつは、一人でこれをやっていた事もあったな。巨大なループを作ったり、ともかく妙に楽しそうにやっていた事が記憶に残っている。
 ゲームの片づけがあらかた終わると、他のメンバーも大体やることが無くなっていたようだ。見回してわかるところでは、長門の本棚の本が少しだけ減ったような印象を受けるのと、朝比奈さんの衣装は並び替えられただけでどうやら一つも減っていないということだ。良い事だ。


 その日はそれ以外、特に何事もなく活動終了。
 いつものようにスーパーによって買い物をしてから長門の部屋に行き、何となく自分の私物を片付ける事にした。
 しかし、大した量があるわけでもなくすぐに終了。別に、片付けるまでも無かったか。
「……」
 気が付くと、長門が後ろに立って何か言いたげに俺を見ていた。
「どうした?」
「ごはん」
 お腹が空いていたらしい。俺は悪かったと頭に手を置いてから、長門のために料理を作る事にした。