今日の長門有希SS

 トランプを扇状にして持ち、お互い向かい合う。
 放課後、いつものように部室で古泉とトランプを使って何か暇つぶしをしようと思ったのだが、今日は特にやることがなかったのか暇を持て余したハルヒが割り込んできて、ハルヒにどうせだからと誘われる形で朝比奈さんも参戦する事になった。
 長門はまだ部室に姿を現していないので、四人で机を挟んで向かい合う事になった。俺の正面に古泉、俺の隣に朝比奈さん、そして斜め向かいにハルヒ。まあ、いつも長門がいる位置にハルヒが座っている形だ。
「あがりましたぁ」
 俺からカードを引き、最初に抜けたのは意外にも朝比奈さんである。朝比奈さんはパタパタとお茶の用意に走り、無くなりかけていた湯飲みに補充してくれる。ありがたい限りだ。
「もっとこっちに近づけなさいよ」
 ハルヒが机の上に身を乗りだしながら、俺に文句を言う。朝比奈さんがいなくなったので、俺のカードを引くのは斜め向かいに座るハルヒになった。さすがにこの長机での斜め向かいは少々距離が遠く、俺も身を乗り出して手を前に出さねばならない。古泉、見えても俺の手札を見るんじゃないぞ。
「ご心配なく」
 古泉は俺の手札が目に入らぬよう、反対側にスッと顔を向けている。
「これね」
 ハルヒは俺からカードを引き、ニヤッと笑うと自分の手札と重ねて捨てる。
 つまり、ハルヒも上がりだ。椅子にふんぞり返って、ニヤニヤと俺達の勝負を見届ける。
 さて、これで古泉と一騎打ちだ。俺のカードは四枚で、古泉は三枚。古泉はしばらく手を逡巡させてからカードを一枚引くと、自分の手札と重ねて捨てる。
 古泉のカードは二枚あるが、選ぶ必要などない。どちらにせよ俺の手元にジョーカーがあるのだから、どちらを引いても結果は同じだからだ。
 さて、そのようなわけで残りのカードは俺が二枚で古泉が一枚。言うまでもなくここが正念場である。もちろん俺のカードのうちの片方はジョーカーであり、これを古泉に引かせて、更に俺がジョーカーでない方を引けば俺の勝利が確定する。古泉が勝つ確率は半分であり、残りの確率を半分にすると俺の勝利。つまり、次のターンで俺が勝利するのは四分の一の確率である。二十五パーセントなら、まだいけなくもない。さあ、どうだ古泉。
「あがりです」
 しかし、無情にも古泉は正解のカードを引いてしまった。つまり、それで勝負は終了。俺の手元には、ゲームの初期に古泉の手札からこちらに引っ越して来て、それからずっと俺の手元から離れる事の無かったジョーカーが一枚残っている。どうやらこのジョーカーは、俺の手にある事をよっぽど気に入ったらしい。嬉しくないが。
キョンは弱いわねー。これなら、何か賭けでもしとけばよかったかしら」
 ハルヒは上機嫌で、朝比奈さんの淹れてくれたお茶をすすっている。
「だいたいあんた、表情が顔に出てるのよ。ねえ、みくるちゃん」
 ハルヒに話を振られた朝比奈さんは、曖昧に苦笑してお茶を濁すハルヒの言うことが本当だと言う事か。
 お前はどう思う、古泉。
「涼宮さんの言う通りかと」
 まあ、こいつがハルヒの言う事に反論するはずなどないので、この意見はあまり参考にするほどではないだろう。
 しかし、そんなに表情を顔に出してるつもりは無いんだけどな。どちらかと言うと俺は、クールに生きてきたつもりだ。ハルヒのように誰が見てもわかるように表情を顔に出していないと思うんだが。
 そんな事を思っていると、ガチャリとドアが開く。それが誰か言うまでもない。ここにいない団員は一人しかいないのだから。
 もちろんそれは長門である。長門は部室全体を一瞥していつも自分が座るところにハルヒがいるのを見てピタリと一瞬だけ顔を止めたが、それから何事もなかったように本棚のところに行く。
長門、ちょっといいか?」
 本を選んでいた長門だが、その動きをピタリと止めてこちらに振り返る。
「なに?」
 首を傾げてこちらを見ている。
 俺の事をわかっているのは長門だから聞いておこう。ハルヒが言っていたように俺が表情を顔に出しているのが普段からなのか、今のゲームだけなのか、ちょっと気になるからな。
「普段、俺ってあまり顔に出してないよな?」
「……」
 しばらく視線を宙に泳がせる。
「だいたい、三割くらい」
 三割って……どういう事だ? 表情を出す割合が感情に対する三割ということは、それほど表情豊かではないということだろうか。
 長門は、まるで何かを読み上げるようにスラスラと続ける。
「膣内が四割程度。口内が二割程度。残りの一割は、お腹の上、髪の毛、お尻、脇の間、耳の中などその他の部位。だから、顔に出す割合は一般のデータから比べると少々多いかも知れない」


 もちろん、俺がハルヒに半殺しにされたのは言うまでもないよな?