今日の長門有希SS

 長門との買い物は日常的に行われるもので、もはやイベントと言えるようなものではない。毎日の生活の中に組み込まれているものを特別扱いする奴はいないだろう。
 だが、その日は少しだけ様子が違った。
「デザートが欲しいのか?」
「……」
 長門は食事をすることも、食後に何か口に入れることも好きだ。何かとはもちろん食べ物が主ではあるが、人体の部位も含まれる。
 まあ、それも食べ物といえないことはないのだが、ここではおいておこう。
 さておき、長門がデザートコーナーで立ち止まるのもまた珍しいことではない。普段なら、長門が吟味してカゴに入れる間、俺が声をかけることもあまりない。
 ただ、今日は少し様子が違っていた。カップに入ったヨーグルトやプリンを手にとって、じっくり眺めては戻す。商品を見比べる長門の視線は、少しだけ真剣なものに見えた。
「別に、何種類か買ってもいいんじゃないのか?」
「相性を吟味している」
「相性?」
 俺はカゴの中に目を移す。
 今回は冷蔵庫にあまり材料が残っていないので、ここにあるもので夕飯を作ることになる。もちろん夕飯だけで総ての材料を使い切ることはないから、使うのはこの一部だ。
 人参にタマネギにジャガイモにピーマンにナス、そして合い挽き肉と豚肉の塊と豆腐と納豆と牛乳。
 これだけでは判断が難しいところだが、俺はシチューを作るであろうことを確信している。なぜならシチューの素も入っているからだ。
「相性、ねえ」
 シチューは乳製品だ。統一性ならヨーグルトあたりを、栄養のバランスならそれ以外を選ぶのがいいのではなかろうか。
「ゼリーなんかどうだ」
「これは定番」
 長門の手に握られているのは、三個セットのコーヒーゼリーだ。
「定番なのか」
「そう」
 何がどう定番なのか、俺にはさっぱりだけどな。
「まあ、別に奇をてらう必要はないんじゃないのか」
「わかった」
 と言うと長門は、それをカゴに入れた。


 そして夕飯の後、長門は冷蔵庫から例のデザートを取り出した。
「一人分なのか」
 セットになっていたものから一つだけ外して、それを持って来ている。
「そう」
 俺の分も出してくれていいと思うけどな。
「あなたの分」
「俺の?」
「そう」
 続いて長門は、スプーンと、牛乳の入ったコップをテーブルに置いた。
「……」
 長門はゼリーの三分の一ほどをすくって口に入れ、更にコップを傾ける。
 ぶくぶく。
「行儀が悪いぞ」
「……」
 長門は戸棚からストローを取り出してきて、俺の前に立つと、そのストローの一端を口に差し込む。曲がらない側だ。
「ん?」
「飲んで」
 口を閉じたまま器用に声を出した長門は、俺にストローの反対側を差し出した。