今日の長門有希SS

 ハルヒのおかしな言動は今に始まったわけではない。入学直後の自己紹介に始まり、SOS団結成前からあらゆる部活を渡り歩くなど様々なことをやってきた。
 もちろん、SOS団を結成したからと言ってそれが収まったりはしていない。おかしな思いつきを実現する古泉たちのせいで、むしろ悪化していると言ってもいいだろう。
 つまり、ハルヒが妙なことをするのは公然の事実であり、今さらちょっとしたことではクラスメイトも気にすることはない。またか、と思うだけだ。
 であるから、今のようにハルヒが俺の腕を掴んで無言でじっと見ていたとしても、俺たちを見てくるような奴はごく一部だ。
「どうしたのよ」
 いや、それは俺の質問だけどな。いきなり物も言わずに手を凝視されて、そう質問されてもどう答えていいのやら。
「これよ、これ」
 ハルヒが指で示したのは、俺の手首。そこには一円玉のサイズにも満たない小さなアザがある。
「何やったのよ」
「さあな」
「何よそれ」
「覚えがないんだよ。寝てる時にどっかにぶつけたんじゃないのか?」
「心配させないようにって誤魔化してるんじゃないでしょうね」
「何でだよ」
 実際、そんなところにアザがある理由なんてわからない。着替えの時に一度見つけたので今気づいたというわけではないが、そんなものがあることすらハルヒに指摘されるまで忘れていた。
「買いたい物があって、あたしに隠れて工事現場とかでバイトしてるとか」
「んなわけあるか」
 週末には毎回のように飲食代を搾り取られるので確かに金は必要だが、そこまでではない。
「本当?」
「ああ」
「じゃあ、確認させなさい」
 と言うと、ハルヒは椅子から立ち上がって飛びかかってくる。
「な、何をする気だよ」
「他の部分にもないか確認するだけよ。大人しくしなさい」
 言いながら、上着のボタンを手際よく外していく。ちょっと待て。勉強もスポーツも得意なのはわかるが、人の服を脱がせるのまで得意なのかよ。
「こら、逃げるんじゃないわよ。脱がしづらいでしょ?」
「だから脱がすなって!」
 ハルヒのおかしな言動は今に始まったわけではなく、こんなことが教室で起きていてもクラスメイトは大して気にも留めない。だから助けを求めても無駄である。
 何人かこちらを見ている奴も目に入るが、へらへらと笑っている谷口や気の毒そうな表情を浮かべる国木田にはハルヒを止める力はない。
 そして、唯一ハルヒを止められそうな朝倉は、楽しそうな笑顔を俺に向けていたのだった。
「観念しなさい!」


 というわけで、授業の合間に上半身裸にされた俺は体中をくまなく調べられることになった。いくつかアザはあったらしいが、とても力仕事をしたような形跡がないという結論に達したハルヒはなぜか残念そうにしていたが、結局あいつが何をしたかったのか俺にはよくわからない。
 ともかく、あの時ほどチャイムがありがたいと思ったことはない。あのままだったらどこまで調べられていたのだろうか。あいつ、ベルトまで掴んでいたよな。
 と、そんなこんながあったが今は昼だ。いつものように長門と弁当を食べようと部室のドアを開くと、そこにはなぜか白衣を着た長門が待ちかまえていた。
「下半分はわたしが検査する」