今日の長門有希SS

 毎年のように異常気象という言葉を聞く。冬なのに温かい、夏なのに涼しい、雨が多かったり少なかったり……どこがどうなのかはその時によって様々だが、本来そうであるはずの状態からずれていれば異常気象と呼ばれる。それが発生する原因は様々だが、遠くの国の海面温度が多少違っただけで日本の気候が影響を受けることもあるらしい。風が吹けば桶屋が儲かる、とはよく言ったものだ。
 そもそも全てが例年通りの年があるのかわかったものではない。温度や降水量など、全てが統計のままであれば、それもまた異常と言えるのではないだろうか。
 とまあ、そのようなどうでもいいことが頭に浮かぶのは先ほどの授業のせいだろう。いや、別に気象についての授業を受けていたわけではない。本来の内容とは関係なく、唐突に雑談を始める教師ってのはどこにでもいるもんで、確か天気の話題から唐突に昨今の異常気象の話題になったはずだ。地球温暖化がどうこう言っていたが、興味がなかったのであまり覚えちゃいない。
 しかし、教師が雑談を始めた時に限って居眠りしていた奴が起き出すから不思議なもんだ。教室の後方にいるとクラスがよく見える。ま、俺の後ろが定位置となっている団長様はそんな中でも居眠りを続けていたのだろうが。
 考え事をしている内に到着していた部室のドアを開ける。
「一体、何をやっているんだ」
 まるで乱雑に詰めた子供のおもちゃ箱をひっくり返したかのような光景が広がっていた。大掃除の時期ではなかったと思うが。
「分別よ分別」
「分別だと?」
「そうよ、分別。ここも使わない物が増えてきたし、資源になる物は仕分けして回収に出しちゃおうと思ったのよ。ほら、さっきの授業で温暖化の話をしてたでしょ?」
 あの雑談を真面目に聞いていた奴が一人でもいたとは驚きだ。しかもこんなすぐ身近に。
「ほらキョンも手伝いなさいよ。何もしなかったら勝手にあんたの物を捨てちゃうわよ」
「わかったよ」
 しかしながら、ここにある物品の大半はハルヒがどこからともなく集めてきたものだ。お前の判断で好き勝手にやっていいんじゃないのか。
「まあそうだけど、こういうのは形だけでも一応聞いておくもんでしょ」
 形だけなのかよ。
キョン、やることないんだったらそこに積んである本を縛ってよ」
 言いながらハルヒはビニルテープを手渡してくる。ここにあるのはハルヒの買うような情報誌ばかりなので捨てても問題ないだろう。
「あ」
 声のした方を見ると、長門がこちらに顔を向けていた。
「どうした?」
 ここにあるのは雑誌ばかりで、長門の本が混ざってるようには思えないが。
「混ざっている」
 長門の雑誌がここにあるとは。だがまあ、そういうこともあるのだろう。
「残しておくか?」
「既に情報が古いので残しておくほどの価値はない」
 そうか、じゃあ一緒に縛っておくぞ。
「待って」
 長門の手が俺の腕を掴んでいる。
ガバスだけ切り取っておく」
 そうかい。


キョン、有希にちょっかい出してないで真面目にやりなさい!」
 そんなこんなで、俺たちは夕方になるまで分別をしていた。