今日の長門有希SS

 深夜、寝付けず一人で過ごしていると退屈なものだ。まだ妹の起きている時間ならむしろ一人になりたくなることもあるが、実際にそうなってしまうと不満を感じてしまうというのは贅沢なことだろうか。
 布団に横になったままぼんやりとしていることにも飽きた時、暇つぶしになるのは本やテレビなどだ。だが長門のように頻繁に図書館で本を借りているものならともかく、部屋にあるのは既に目を通したものばかり。まあ俺も長門と一緒に図書館に行っているので何か借りればいいと思わないこともないが、SOS団に所属しいつ何が起きるかわからない俺は本を読める時間が取れるかわかったものではない。
 以前、長門に勧められた小説を借りてはみたものの、読む時間が不足し半分ほどで返却したこともある。図書館側に記録があるので同じ本を何度か借りるのもなんとなく気が引けてしまい、結局あの作品の結末はわからないままだ。
 とまあ、それはさておき俺はテレビを見ることにした。日付が変わる前後には面白いバラエティも多いが、ある程度の時間になってしまうと大した番組がなくなってしまう。しかし、あまり面白すぎる番組だと眠くなくなってしまうことも起こりうるので、眠くなるまで適当に見ていられるようなそこそこの番組があればいい。
 このような際、見るべきではない番組というのがある。先に述べたように面白く夢中になってしまうものはそうだが、例えばホラー映画や心霊関係の番組は避けるべきだ。昔に比べて超常現象を扱う番組は減ったので心霊関係の番組はあまりみかけなくなったのだが、あまり有名ではないホラー映画はたまに放送されている。いかにもなB級ホラーなら笑ってみることができるが、日本で作られたホラーの場合、本当に怖くなってしまうこともあるので注意しなければならない。そう言う時に限って妙にトイレに行きたくなってしまうもので、何も起きるはずのない廊下を歩くのも少しだけ嫌な気分になる。霊的な存在を信じているというわけでもないのだが、周囲に普通ではない存在が多いのでひょっとしたらと思うこともある。
 だが、そんなホラーよりもタチの悪い番組が存在する。ホラーならば作品によってトイレに行くのが嫌になったり眠れなったりする度合いがかなり上下するが、ほぼ間違いなく寝付きが悪くなるものが存在する。
 それはグルメ番組だ。大抵そういったものは週末の昼間に放送された番組の再放送であり、余った時間を埋めるために流されているのだと思うが、見せられる者にとってはたまったもんじゃない。
 以前、長門と二人でいたときにもそのようなことがあった。若い男女にとって夜の過ごし方と言えば決まったようなものだが、その日はまだ時間も早く俺の部屋に泊めていたのでさすがにそれは控えることにした。で、何の気なしに付けたテレビで放送されていたのがラーメン特集だ。数あるグルメ番組の中でも特に凶悪なのがラーメン特集で、少しでも目に入ってしまうと確実にラーメンが食いたくてたまらなくなってしまう。だがラーメンというのは油が多い上にそれなりの量があるので、変な時間に食ってしまうと翌朝は胃腸の調子がおかしくなることだってあり得る。
 そう言うわけでしばらくは我慢していたのだが、三十分ほど経過したところで「我慢しないでわたしと食べればいい」と言う長門と共にキッチンに向かい、戸棚にあったインスタントラーメンを作ることになった。
 なお、その時は物音で起き出してきた妹を交えて三人で一人前を食べることになり、翌日の胃腸へのダメージは最小限に抑えられることになった。
 だが今回は一人なのでそうはいかない。適当にチャンネルを回し、食べ物番組がなくてほっとする。
 そして、結局俺が見ることにしたのはお色気の要素の入ったバラエティ番組だった。遅い時間になるとソフトなお色気がある番組が放送されることもあり、世の男子中高生の強い味方になっている。
 実際、俺だってそのような番組をみていたことがないとは言えないが、現在は長門がいるのであまり必要としていない。
 とは言え、そのような番組を見ていると少しだけムラムラしてしまうのは若い男にとっては仕方のないことである。され、これを解消してしまわないとホラーやグルメ番組とまた違った理由で眠れなくなりそうだが――
 とんとん。
「な――」
 妹、もしくは母親が物音に気づいたのだろうか。この時、テレビを消してしまえば何かやましい番組を見ていたのがばれてしまうので、俺は慌ててテレビのチャンネルを変える。そして、落ち着いたところでズボンを直しながらドアまで移動する。ドアに向かって返事をすれば他の家族に声が聞こえてしまう可能性があるので、ドアを開けて会話をするべきだろう。
 そこで俺は予想外の人物を目にする。
「え?」
 妹でも母親でもない、そこにあったのは長門の姿だ。
 ちょっとした用事なら電話でいいはずだ。だが、こんな時間に長門が訪れたということで俺は思わず身構えてしまう。何かまたハルヒに関わるトラブルでも発生したのだろうか。
「……どうした?」
 落ち着いて問いかけると、長門は口を開いてこう言った。
「我慢しないでわたしを食べればいい」