今日の長門有希SS
鶴屋さんが持ってきたスイカを皆で食べた以外は特に普段と変わりなく時は流れ、俺たちは学校を後にする。集団下校に鶴屋さんが混じっているのも普段とは違う状態ではあるが鶴屋さんや朝倉がいるのは珍しいと言うほどではない。
まあともかく、見た目としては特に何事もない日常である。長門の鞄がもぞもぞを蠢いていることを除けば。
「なあ、大丈夫なのかそれ」
ハルヒたちに気づかれぬようさりげなく部室の片隅に置いて乗り切ったわけだが、中にいるのは紛れもなく朝倉である。俺の命を狙ってはいるが、閉じこめっぱなしで放置するのも気分がいいもんじゃない。
それに、授業中に部室に置いていた時とは違って振動があるはずだろう。
「鞄の中まで外からの衝撃が到達しないので問題はない」
「だったら中で動いても見えないようにすればいいようにはできないのか?」
「鞄の形状をこのまま固定すれば可能」
いや、そうなると朝倉にとっちゃ固い壁に囲まれた状態で振り回されてるようなもんだろうからやめてやれ。小さくなっても朝倉は朝倉だ。
「また明日っ」
解散の場所、鶴屋さんがにょろりんと去り俺たちはマンションへ向かう。
「戻る前に朝倉の部屋を見ておくか?」
俺の提案に対して長門はわずかに首を縦に振る。手がかりがあるかどうかはともかく、これ以上朝倉をこのままにしておくのは忍びない。
エレベーターを五階で止めて朝倉の部屋へ。長門の部屋に比べると格段に頻度が落ちるが何度か訪れたことはあり、普段とは違う階でエレベーターを降りることにそれほど違和感はない。まあ、マンションなんてどこの階も造りは一緒なんだけどな。
「開ける」
言って長門はドアを開ける。わざわざ宣言したところを見ると、俺にはわからないが鍵を開けるための何らかの処理を行ったのだろう。
玄関で靴を脱いで部屋に入る。慣れているのか長門はまるで自分の部屋に入るかのように自然だ。
「寝室でも見てみるか」
長門の話を聞く限り、朝倉がどうにかなったのは夜中であると思われる。だったら手がかりがありそうなのは寝室だ。
ええと、寝室は確か……
「こっち」
手を引かれる。
そうそう、確かそっちだったな。長門は俺と出会う前からここに出入りしているだけあって我が物顔だ。
「え?」
長門の開けたドアの先を見て俺は足を止めてしまう。
「あれ、どうしたの?」
ベッドから身を起こしてこちらに顔を向けているのは俺のよく知る朝倉だ。
待て、いつの間にそんなところに? それより小さくなっていたのは何だったんだ?
「長門」
「……」
鞄を床に起き、ジッパーを開く。
「そろそろ長門さんの部屋に戻ったんですか?」
目をこすりながらぴょこんと顔を出したのは、こちらもまた朝倉である。その小さい方の朝倉は、きょろきょろと周囲を見回した後、ぽかんと口を開けている朝倉を見てぴたりと首が止まる。
二人の朝倉が見つめ合う。サイズは小さいとは言え朝倉同士、果たしてどのような気分なのか知る由もない。
しばしの沈黙の後、二人は同時に口を開いた。
「ヒィー。まがいモノ」