今日の長門有希SS

 眠いときに眠ることほど気持ちのいいものはない。夜更かしをした翌日の退屈な授業中だとか、疲れて座っている時にウトウトとうたた寝をしてしまうのはよくあることだが、それらはあまり褒められたことではない。どうしても眠い時には数分だけ眠るとすっきりリフレッシュしてその後の授業に集中できたりするので一概に悪いとは言えないが、まあ一時的に授業を聞いていないのは事実であり、巡り巡って次のテスト期間にツケを払わされるのが問題である。
 しかしまあ、問題は寝不足だったり疲れている時のうたた寝だ。そういった状態では体の抵抗力が少々弱まっていることが多く、ちょっとしたことで体を壊してしまいかねない。なんとなくテレビでやっていた深夜映画を最後まで見てしまって寝不足だったとか、午前中にハルヒに振り回されて体力が尽きているとか、事情は様々だがそのような時はうたた寝をしてしまわないように注意をすべきである。
 だが、眠ってはいけないと思えば思うほど眠くなるもので、特に飯を食った後などは油断をするとすぐに時計の針が進んでいたりするわけだ。朝比奈さんとは違ったタイプの時間移動である、一方通行だが。
「……」
 圧迫感を感じて目を開けるといつの間にか長門が俺の体にもたれかかっていた。改めて状況を顧みると俺たちは行きつけの図書館の中にいて、そこで備え付けられたソファに体を沈めている。本を探すという長門の目的はもう終わったのだろうか。
「まだ途中」
 それならここにいるより棚の間を歩き回ってくるべきではなかろうか。俺としては長門とただ何もせずこのままぼんやりと座って過ごすことにやぶさかではないが、その欲望に忠実に従ってしまうと閉館時間までこのまま動かずに終わるだろう。
「少し寒そうだったから」
 暖かいか寒いかと聞かれたら、まあ少し肌寒いかなと感じなくもない。
「寒いってほどじゃ――」
 意図せず咳が出て言葉が途切れてしまう。
 喉が少々いがらっぽい。風邪を引いた、とまではいかないが少し体調を崩した予兆に感じられる。
「ありがとな」
 ぽんと頭の上に手を置く。放っておかれていたらそのまま風邪を引いていた可能性もなくはない。
「いい」
 さて、起きたところでどうするかね。眠気はすっかり遠のいてしまったし、このまま長門の部屋に戻って――なんか忘れているような気もするが、気のせいだろう。
「まあ、外に出るか」
「……」
 少しだけ首を傾げてから、無言で着いてくる長門を連れて図書館を出る。今日は自転車じゃなかったんだな、と思いながら長門のマンションに向かい通い慣れた道を歩く。
「どこへ?」
「いや、いったん帰ろうと思ったんだが……どっか別の場所に寄る予定があったか?」
「ない」
 それなら問題はないはずだ。少し手が冷たいので手を握り、長門の部屋に向かう。


 ハルヒに電話で怒鳴られて不思議探索の途中だったことを思い出したのは、長門の部屋に入った矢先のことである。