今日の長門有希SS

 朝食を食わない奴が増えているそうだが、健康のためには三度の飯を食う方がいい。
 まあ、その気持ちもわからなくもない。例えば起きたばかりでは食欲がないとか、時間がないとかなど様々な理由が考えられる。
 しかし、何も食わないよりは手早くあっさりと食えるものを食った方がましだ。ヨーグルトだとか果物だとか、準備に手のかからないものを食うのもいい。
 たまにダイエットのために朝食を抜く奴もいるらしいが、それは逆効果の場合がある。人間の体はエネルギーが足りなくなれば健気にも省エネに努めるものであり、空腹の状態で活動するとカロリーを消費しづらい体質になり、更には入ってきたエネルギーを少しでも蓄えようと脂肪を付けるようになるわけだ。
 とまあ、朝食を抜くのはデメリットの方が多いとわかってはいるのだが、それでもめんどくさいことはある。一人ならそのまま二度寝をしてしまったり食わずに昼頃までぐだぐだしていてもいいのだが、一人じゃない場合は話が違う。
「……」
 隣に寝ている長門と目が合う。そう、自分だけではなく長門がいるのだ。この食いしん坊な宇宙人に何か用意してやらなきゃいけない。
 俺の方は特に食欲がないので、何がいいか聞いてみるか。
「なあ、何か食いたいものはないか?」
「……」
 長門は少し考えるように俺を見る。
「焼き肉」
 朝からかよ。
「だめ?」
 いや、お前にそう言われると断れないが、まだ食欲がないからもっとあっさりしたものにしてくれないだろうか。それに焼き肉用の肉も買っていないはずだ。
「じゃあユッケ」
 まあ焼いた肉よりはあっさりしているような気がするが、それでも朝から食うには重いというか、そもそもユッケに出来るような肉なんて常備してる一般家庭があるのか。
「……」
 ごろりと向こうに体を向ける。
「わかった、焼き肉は昼食にしよう。とりあえず今は何を食う?」
 長門はまるで俺の言葉を無視するように背中を向けたままだが、別に怒っていたりするわけでなく、何がいいか考えているのだろう。
「何も」
 食いたいものを聞いて焼き肉と答えるほど空腹だったはずなのだが、ひょっとして拗ねているのだろうか。
「腹減ってるんだろ?」
「減ってる」
 それなら何か食った方がいいと思うのだが。
「肉を食べる前に何か食べたらもったいない」
 まあ確かにその気持ちはわからなくもないが、でもそれは昼食の話だから大丈夫だろ。
「これを見て」
 長門は枕元にあった何かを持ち上げて、のろのろと俺の顔の前に突き出す。
「ああ」
 なるほど、そういうことか。
「もう十二時」
 どうやら俺たちは昼まで寝てしまっていたようだ。