今日の長門有希SS

 うっすらと目を開ける。瞬時に自分がどこにいるのか理解し、横を見るが長門の姿はなかった。
 長門が先に起きているのはそれほど珍しいことではない。目が覚めても横で寝転がっていることもあるが、腹が減ったとかで起き出して料理をしていることもある。
 物音が聞こえる。まだ時間が早いわりに目が覚めたのもこれが原因だろうか。
 しかし、食事を作っているにしては様子がおかしい。ごそごそと、ビニール袋がこすれあうような音や、ぼこぼこと妙な音が聞こえる。
 長門は一体、何をしているのだろうか?
 眠い目をこすり布団から抜け出す。まだ眠かったが、好奇心が勝った。
「何やってんだ?」
 台所で見つけた長門はこちらに背中を向けて屈んでいた。
「ゴミをまとめている」
「ああ」
 曜日を確認する。そういえば今日はゴミの日だったか。
 燃えるゴミは頻繁に回収されているが、資源ゴミなどは回収される頻度が低い。物によっては二週間に一度だったり、下手をすると月に一度しか回収されないものもある。
「今日は何の日だ?」
「ペットボトル」
 いいながら長門はペットボトルを両手で握りつぶしている。妙な音はこれが原因だったのか。
「やけに多いな」
「前回、捨てられなかったから」
「へえ」
 長門はあまりこの部屋を開けることはないし、寝坊も滅多にしない。珍しいこともあったもんだな。
「……」
 長門の視線がじっとりと絡みつく。
 何か、悪いことを言ったか?
「その前夜のことを覚えていない?」
 前夜と言われても、それがいつだったのかわからないんだが。
「あの日、あなたはカテーテルを」
「悪かった」
 その日ならば、長門が寝坊をしたのは俺に原因がある。更に言うと俺は昼頃まで眠っていたような気がする。
「反省している?」
「ああ」
「それなら」
 長門は俺の顔の前にビニール袋を突きつける。
「これを捨ててきて」
「わかった」
 それで済むならいくらでも捨ててくるさ。ちょっと貸してみ――ぬぁっ!
 あまりの重みに腕が変な方向に曲がりそうになった。一体、これは何が入っているんだ!
「ペットボトル」
 いや、そのはずなんだが……袋の中を確認すると、ペットボトルの原型を留めていない塊状の物体がある。
「その二週間前もあなたはわたしをなかなか寝かせようとしなかったし、更にその二週間前の時などは昼まで続いた」
 えーと……つまり、数ヶ月分のペットボトルを圧縮したものが、この袋の中に入っているってのか?
「そう」
 よく破れないなこの袋。
「耐久性を増すために同型の袋を大量に重ねて圧縮した。それ自体、一キロある」
 そうか。
 しかし、これでは俺も運搬できないし、ゴミを回収に来た人間だって回収できないだろう。一般人が持てる重量に分割してくれないか?
「わかった」


 それから長門が圧縮したペットボトルやビニール袋を元に戻し、一袋あたりの重量は常人が持てるほどになった。
 しかし、反省の意を表すためとエレベーターを使用することが許されず、俺はゴミステーションまでの道のりを徒歩で数往復させられる、終わった頃には動けなくなるのであった。