今日の長門有希SS

 迷惑きわまりない話であるが、この世界はハルヒの機嫌に左右されるらしい。今までにこにこしていたかと思いきや突然不機嫌そうに口をつぐむこともあるような気分屋であり、世界は水の上に浮かんだ笹舟くらいに不安定な状況だと言えよう。
 そのようなわけで、ハルヒ仏頂面をしているだけで俺たちにとっては大事件だ。まあまず古泉が真っ先に異常を察し、朝比奈さんがそれを受けてお茶をこぼすなどのトラブルを引き起こし、長門は気にせず読書をしている。いつもながらの構図であり、古泉の要求も予想できる。
 それとなく理由を探ってくれ。
 簡潔に述べるとそのような要求をしてくる。ハルヒの内心に関しては聞かれてもいないのにあたかも見てきたかのように解説をする古泉だが、その機嫌をどうこうする能力は身につけてはいないらしい。まあ古泉だけなら放っておいてもいいのだが、朝比奈さんを不安そうにさせたままいるのも忍びないので俺は溜息を一つついてハルヒのご機嫌をうかがうことになる。
「なあ、どうしたんだ」
 ハルヒは眉間にしわを寄せたまま読んでいた雑誌から俺に視線を移す。写真と文字が多いのだが、一体何を読んでいたんだこいつは。
「あたしは今、大人の汚い世界を垣間見たわ」
 一体何を言ってるんだお前は。
「これよ、これ」
 ハルヒは持っていた雑誌を持ち上げて俺の方に表紙を向ける。
「最近コマーシャルやってんの、知らない?」
 確かにその雑誌には見覚えがある。よくわからない週刊誌を毎週のように発行している会社であり、ハルヒが言うようにテレビでその名前を聞くことも多い。買ったことがないのでわからないが、コマーシャルを見る限り豆知識的な本もあれば部品などが付属して何かを組み立てるようなシリーズもあるらしい。
「で、それがどうしたんだ」
「宣伝されてた内容がこの創刊号には掲載されてないのよ!」
 続刊があるならそっちに載るんじゃないか?
「載るわ。宣伝もあったもの」
 それなら何が問題なんだ?
「ここを見なさい」
 ハルヒが指し示したのは表紙に書かれていた値段の部分。
「創刊特別定価?」
「そう。この本は二百円くらいで買えるけど、続刊はその三倍なのよ!」
 まあ最初で安く売って宣伝して、後から高くするのは商売としては普通じゃないのか。
「確かにそうだけど、だったら最初から後の内容を宣伝しなきゃいいじゃない! 高校生なんてお小遣いにも限度があるのよ!」
 そうだな。だがそれを知っているなら週末のパトロールの時の飯代も少しは考慮してくれ。SOS団の食費で俺がどれだけエンゲル係数を上げてると思ってるんだ。
「とにかく、だから資本主義って嫌なのよね」
 ハルヒの不満は最終的に日本経済そのものにぶつけられることになった。
 やれやれ。