今日の長門有希SS

 料理を作る時間がない日は弁当を買って済ませる場合もある。弁当専門店というのもあるのだが、スーパーやコンビニにも弁当が置いてあったりする。便利になったものだ。
 今回来ているのは、バイキング形式で料理を詰められる店だ。重量による量り売りもしているのだが、料金が決まっていていくらでも詰め放題にできるセットもある。所定の位置にご飯ものを詰めなければいけないという制約はあるが、どのみち炭水化物は必要なので問題はない。
 料金設定がリーズナブルなせいか店内は混雑していた。容器を数個持っている中年女性は家族の分も買っているのだろう。主婦が多いようだが、大学生や若いサラリーマンみたいなのも目に付く。俺たちのように高校の制服を着ているのは一人もいないが。
「……」
 横目で見ると長門は黙々と容器に食材を詰めている。きょろきょろと視線をめまぐるしく動かしながら、人の間を縫うように歩き回って料理を詰めている。
 長門はそれほど勢いよく食べるわけではないが、ペースを崩さず食べ続けることができる。そして最終的に食う量はかなりのものだ。
 肉や魚を詰めるのに満足したのか、今はサラダのコーナーに行っている。味もバランスもそれなりに考えているのだろう。
 さて、このままじゃ長門を待たせることになりそうだ。人をかき分けるようにしながら容器を揚げ物で満たしていく。鶏肉の唐揚げに、魚のフライ。揚げ物ばかりじゃ体に悪いかも知れないが、若者は脂っこいものが好きなのだ。まあ、目の前にあるのが揚げ物ばかりであり、他の場所に移動するが面倒なのもあるが。
「さて」
 肉や魚はこれくらいでいいだろう。揚げ物を詰め込んだ分、野菜も食わなければならない。一度人混みから外れて、サラダなどのあるコーナーへ移動する。すんなり歩いていた長門と違い、皿の前に移動するのも一苦労。
 生野菜を詰めていてふと思う。市販の弁当ではキャベツなどの下になぜかパスタが敷かれていることがあるが、あれは一体どうしてなのだろう。他にライスもあるので炭水化物が不足している訳じゃないし、栄養バランス的には意味がないことだと思うのだが。
 ま、今回はそのような詰め方をする必要はない。余っていたスペースに野菜を詰め、一足先に詰め終わっていた長門と合流する。
「ほう」
 長門の持っていたものを見て俺は思わず声を漏らしてしまった。


 弁当匣の中にはみつしりと料理が詰まつてゐる。


「さすがだな」
「……」
 長門は不思議そうに首を捻る。容器の中に隙間なくおかずが詰められており、無駄な空間は全くない。持たせてもらうとずっしりと重く、圧縮して詰め込んでいるであろうことが予想できる。
「値段は一緒だから」
「そうだな」
 俺の持っているものと長門のが同じ値段とは信じがたい。俺だって満腹になるくらいは詰めたつもりだが、長門のと見比べると無駄なスペースが目立つ。
 いや、空間全てを満たして蓋で押さえつけているようなものと比べるのが間違っているのだとは思うが。
「帰るか」
「……」
 こくりと頷く長門と共に会計を済ませ、長門の部屋に帰る。
 お茶を沸かし食べ始めようとすると、長門は大きな皿を持ってきて自分の弁当箱からライスやおかずを分けていた。
「何をしているんだ?」
「分けて食べる」
 考えてみたら、容器に入っている分を一度で食いきることはないのだ。長門ならばあるいはと思ったが、さすがに多かったのだろう。
「そうだよな。それじゃ三回か四回分くらいの量だよな」
「二回に分けて残りは明日の朝食で食べる予定」
「そうか」


 その日はそんな風に夕飯を済ませた。