今日の長門有希SS

 長門の部屋で過ごしているとたまに訪問者が訪れることがあるのだが、最もその頻度が高いのは朝倉である。バックアップだとかいう話はさておき、朝倉は高校に入る前の待機期間からずっと長門を世話していたとかで、今でもたまに長門を妹か何かのように扱っていることがある。
「ちゃんと野菜も摂ってる? うちで出来たトマトを持ってきたから食べてね」
 大きめのトマトが五つほど入ったザルを抱えて朝倉はにこりと笑う。お前は上京して一人暮らしをしている子供に仕送りをする故郷の母親か。
 ってちょっと待て、一体お前はそれをどこで作ったんだ。このマンションには畑なんてなかったと記憶しているのだが。
「ベランダのプランターで作ったの。ちょっとした野菜くらいならそれで十分だから」
 こまめな奴だ。
「お店で売ってるトマトって完全に赤くなる前に収穫してるのが多いけど、これはちゃんと真っ赤に熟するまで待ったし、新鮮だから美味しいよ。騙されたと思って食べてみて」
 そんなに熱心に勧められなくても食うさ。長門だって表情は変わらないが、なんとなく物欲しそうにトマトを見つめているしな。
長門、どうやって食いたい?」
「……」
 俺の方に顔を向け、なにやら困ったように黙り込む。
「この量では足りない」
 どうやら多種多様な料理法を思い浮かべているらしい。
「一番食いたいのをまず言ってみろ」
「甲乙つけがたい」
 長門の中でその優先順位が決まらねば、このトマトの処遇は宙に浮いてしまう。あんまり迷って決まらなければ、ただ切って何も付けずにそのまま食うことにもなりかねん。
 まあ実際、それでも十分にうまそうではあるのだが。
「あ、それなら心配しなくていいよ。まだ緑のトマトが残ってて、何日かしたらまた食べられるようになるから」
「そう」
 長門はそれで安心したような目を俺に向け、いくつか料理の希望を述べた。


 それから数日おきに朝倉が来るようになり、トマト料理を食う機会が増えることになった。しかし、いろいろな調理法を試したし、何より味がよかったので飽きることはなかった。甘みがあり、トマトの味が濃厚。畑ではなくプランターでもここまで美味いのが出来るのかと感心した。
 ちなみに話はそれだけでは終わらない。長門の部屋のベランダにもプランターが置かれ、いくつかの野菜の苗が植えられるようになるのだが、それはまた別の話だ。