今日の長門有希SS

 クーラーを点けたままだとか、窓を開けたまま眠ってしまうのは健康面を考えるとあまりよろしいことではないのだが、それでも暑いときはついついそうしてしまうのが人情である。風邪を引いてしまうこともあるし、特にクーラーの場合は乾燥して喉を傷めてしまうこともあるわけだが、それが些細なことに思えてしまうこともある。
 このひんやりとした世界の中でまどろんでいる俺は、今まさにそのような状況下に置かれているわけであると推測できるのだが、それでもこの心地よさには勝てない。このまま目覚めることなく、はたまた眠ってしまうこともなく、ただまどろんだままいるのはどれほど幸せなことだろうか。
 しかしながら、現実とはそううまくいかないものである。不意に生じた空腹感が眠気を遠くに追いやってしまい、まだまどろんではいるのだが、その心地よさも徐々に薄れてしまった。一度気になってしまうとどうしようもないもので、やがて俺は腹が減ってたまらない状態になり、覚醒せざるを得ない状況になった。
「ふう」
 目を開けて体を起こそうとしたのだが、妙に体が重くて起き上がることができなかった。まだ体が眠っているのかと思ったのだが、どうやら原因は他にあったらしい。
「すう……すう……」
 長門が俺の胸で寝息を立てていた。両手を俺の体に絡み付けるようにしている長門は、心地よさそうな顔で眠っている。
 こんな顔をして寝ている長門を起こすのはしのびないのでこのままの姿勢で空腹に耐えようと思ったのだが、すぐに寝息が止まってゆっくりと長門が目を開く。
「……」
 まだ意識がはっきりしないのか、長門はぼんやりとした目つきで俺の顔を見つめている。
「よう」
「おはよう」
 そう応えたものの、長門は俺の胸に再び顔をうずめてしまった。胸に押し付けられて長門の息がかかり、俺の胸はすーっと熱が下がっていく。
「ん?」
 おかしい。普通、顔を押し付けられて息を吹きかけられたら暖かく感じるものではないだろうか。ふーっと勢いよく息を吐く場合は涼しく感じる場合もあるが、その場合は口から出る空気の温度は低くはないのだが、周囲の空気を早く動かすことで涼しいと感じるものである。
 ともかく、密着したこの状況では涼しいと感じるはずがない。俺の体がおかしくなってしまったんだろうか?
 いや、俺の体はいたって健康であり、涼しいと感じているってことは実際に温度が低いのだろう。
 気づくと、俺の体に絡み付いている長門の腕もひんやりとしていた。体温の差にしては少々温度が違いすぎる。
長門
「……」
 呼びかけると、長門はのろのろと首を持ち上げて俺の顔を見つめてきた。
「お前、どうしてそんなに冷たいんだ?」
「あなたが寝苦しそうだったから」
 つまり長門は、うたた寝をしていた俺を快適にするためにわざわざ体温を下げたり口から冷たい空気を出してくれているというのか。
 ところで、俺が長門に触れて冷たいと感じているのなら、長門は逆に俺に触れて熱いと感じているのではないだろうか。それに、体温が低くなると相対的に気温が高くなった状態になり、暑く感じてしまうとも考えられる。
「お前は大丈夫なのか?」
「へいき」
 俺の顔をじっと見つめてくる。
「あなたの体温を感じるのは、わたしにとっては心地よいことだから」