今日の長門有希SS

 週末、俺たちはなんとなく公園に足を運んだ。公園と言っても近所にある小さな公園ではなく、長門のマンションから少し離れた大きな公園だ。
 それほど混んでいないだろうと思っていたのだが、週末ともあって公園にはそれなりに人の姿があった。犬の散歩をさせている者や、ベンチで休んでいる者、はたまた噴水で遊んでいる子供なんかもいる。
 そして、それを目当てに出店なんかもあった。見たところ飲み物や食べ物を売っているようだが、このような場所で売ってる商品は普通に買うより割高に設定されている場合がある。山の上など交通の便が悪い場所ならともかく、少し出歩けばコンビニもあるようなこんな場所でそのような値段設定にするのはいかがなもんかね。
「……」
 などと思っていると、長門の視線がその出店の方に向かっていることに気が付いた。
「どうした?」
「何か飲みたい」
「そうだな」
 たまにはそんな店で買い物をするのも悪くないだろう。なんというか、行楽地に来たような気分になれるしな。
 それに、値段を見てみるとペットボトルが百五十円とそれほど高いわけでもなかった。そこらのコンビニと大差ない値段だな。種類はちょっと少ないが。
 すたすたと歩いていく長門について行くと、小さな風呂桶のようなものに満たされた水に大きな氷がいくつか浮いていて、そこにジュースも浮かんでいた。長門が全体を見回してからスポーツ飲料を取り出すと、店員はそれを受け取ってタオルで拭いてから長門の小銭と交換する。
 長門と同じようにコーラを買ってから、出店の近くの空いているベンチで休憩することにした。
「……」
「ちょっと眩しいな」
 座ってすぐに、そこのベンチが空いていた理由を理解する。ここのベンチは太陽の方を向いていて、直射日光を浴びていたからだ。
 まあ、同じ向きのベンチは他にもあるのだが、他のところを見てみるとうまいこと木の影に隠れて日があたらないような状態になっていた。
長門、どうする?」
「大丈夫」
 長門は俺の顔を両手で挟んで自分の方に向けさせる。
「前を見なければいい」
 ベンチに斜めに腰掛け、俺の方に体を向けていた。確かにそれなら眩しくはないのだが、こんな人の多いところでお互い向き合っているのもいわゆるバカップルのようで気が引ける。
「それでは、あなたも同じ方向を向く?」
「いや」
 それこそ馬鹿みたいだ。何が悲しくて長門に背を向けてベンチに座らなければならないのか。
「では逆方向に?」
 後ろを向いた状態の長門の方に体を向けていると、まるで痴漢か何かみたいだな。
 結局、俺たちはベンチでお互いの方に体を向けて座ることにした。周囲からの視線を感じないこともないが、あまり気にしない方がいいだろう。
「……」
 しばらくして、長門がなんとなく居心地悪そうというか、そわそわしていることに気が付いた。やはり人の目が気になるのだろうか。
「どうした?」
「お腹も空いてきた」
「わかった」
 スペース確保のために長門にそこで待ってもらって、俺は先ほどの店で何か食べ物を買うことにした。
 そこらのコンビニより少々高いおにぎりを食べながら、俺たちは直射日光が眩しくなくなる程度までのんびりとすごした。