今日の長門有希SS

 いつもの放課後。まあ今日は珍しく俺達に加わって朝比奈さんがトランプをしたりしていたが、それ以外は取り立てて違いはないいつもの放課後。
「あら?」
 普段なら聞き流されてしまいそうなハルヒの声が静かだった部室に響き、何となく俺達の視線が集まる。
「な、なによ」
 窓の方に顔を向けていたハルヒだったが、手を止めた俺達が注目している事に気付いたのかやや戸惑ったような顔をする。
「ほら、雨降ってんのよ。天気予報で雨だって言ってた?」
 確かに窓の外ではパラパラと雨が降っているようだ。下校している生徒の中に傘を差している者が混じっていたり、そうでない者はやや小走りだったりするところからもそれがうかがえる。
「確か今日は曇りの予報だったはずですが」
「あ、あたしもそうだったと思います。確率は三十パーセントくらいだったかも……」
 古泉と朝比奈さんの発言を聞き、ハルヒは「そうよね」と首を振る。
「参ったわ、雨降ると思ってなかったから傘とか用意してないわよ」
 その点に関しては同意である。今朝の空模様は覚えていないが、印象に残っていないと言う事は雨が降るような感じでもなかったのだろう。そもそも天気予報を見たハルヒが傘を持ってきていない程度であるから、今朝の予報を見ていなかった俺が持ってきているはずもない。
「一応、折り畳みなら常備してますが」
 こういうところでソツがないのが古泉である。さすがは超能力者と言いたいが、この場合は超能力は無関係か。
「みくるちゃんは」
「持って来てないです」
 朝比奈さんは未来人であるからその日の天気くらいは知っていても不思議はないのだが、そのような事柄を知る事は出来ないのだろうか。
キョンは持ってきてないし」
 当然のように断言するハルヒ。それじゃまるで俺が駄目な奴みたいだが、持ってきていないのは事実である。
「有希は?」
「ある」
 本から視線を話さずぽつりと言う。まあ長門はこういうところのミスはほとんどないので、持ってきていても不思議はない。
「二つか……ちょっと厳しいわね」
 今ここにいる人数は五人で傘は二つ。確かに少々無理があるかも知れない。
「それじゃ、今日はちょっと早いけどそろそろ帰りましょうか。まだ降り始めだし、本降りになる前に帰りましょ」


「ちょっと狭いわよ」
 ハルヒがぐいぐいと体を押しつけてくる。そんなに押したら俺の体自体が反対側に移動する事になり、そうすると傘も移動するから意味がないと思うけどな。
「……」
 反対側には長門。何も言っていないのだが何か言いたげな様子で俺の顔を見上げてくる。
 さて、現在の状況をおさらいしよう。長門が持っていたのは折り畳みではなく少々大きめのコウモリ傘であり、古泉の折り畳み傘ではなくこちらに三人が割り当てられるのは当然であるのだが、そこは男女別にならないのがSOS団らしいところである。まあ具体的には帰り道などの兼ね合いがあってこのような組み合わせとなり、俺も古泉と相合い傘など御免被りたいのでその点に付いては文句はないのだが、しかしながらハルヒと同じ傘というのは少々神経を使う。
キョン、濡れちゃうじゃない」
 しかしな、これでも真ん中くらいにしてるんだぜ。お前の方だけに傘を向けたら長門に雨が当たるだろ?
「わたしも濡れている」
 ほらな、長門だって雨が当たっても我慢してるんだ。お前も贅沢言うなよ。雨が強くなる前にさっさと帰るぞ。
「違う。下半身」
 ……何を言っているんだ、お前は。
「あなたといるといつもこう」
「ちょっとキョン、どういう事か説明してくれるわよね?」
 こうして、雨が止む前に帰るどころの話ではなくなるのであった。