今日の長門有希SS

 絆創膏が必要なのはどんな時だろうか。
 大きな怪我をした時は絆創膏ではなくガーゼや包帯などを使い、小さな怪我には絆創膏を使う。最近ではガーゼではなく柔らかいグミのような素材で作られているものもあり、これは人体の治癒力を利用しているものらしい。
 それはともかく、怪我をしなくても絆創膏が必要な時がある。必ずしも絆創膏でなければいけないというわけではないのだが、絆創膏で代用できるものであり、専用の道具を買うのも馬鹿らしい、そんな時が。


 それはある寒い日の放課後だ。
 SOS団の活動と称して放課後の時間を無駄に過ごし、いつも通りの集団下校。
「どうかなさいましたか?」
 特に不思議な出来事などではなく高校生らしい平凡な世間話をしていた古泉が妙な質問をしてきた。
「どうか、って何だ?」
「いえ、先程から服の中に手を入れているものですから、もしかしたら寒いのかと思いまして」
「ちょっとかゆいのを掻いてるんだ」
 確かに寒いのも事実ではあるのだが、それ以上に問題なのはこのかゆみだ。
「何かかさぶたでも?」
「別に。シャツがちょっと擦れてな」
「それは災難ですね」
 と、古泉はそれほど災難でも無さそうな口調で言う。まさに他人事、と言った調子だ。まあ実際こいつにとっては他人事なのだが。
 実際、大した事じゃない。少々痛がゆいだけであり、もしかすると擦り傷になっているかも知れないが、仮にそうなっているとしても小さなものだろう。
 それからしばらくして、特に何事もなく解散となる。いつものように長門と合流すると、
「どこがかゆいの?」
 と聞いてくる。
 別に大したことはないのだが、言わなければ心配するかも知れない。それに、相手が長門ならいいだろう。
「胸だ」
「……」
 長門は少々驚いたように俺を見る。
「なぜ?」
 確かに胸がかゆいというのはよくわからないだろう。少々馬鹿らしく恥ずかしいが伝えるしかないか。
「今日、ちょっと寒いだろ」
「……」
 無言でうなずく。
「ちょっと勃ってるんだ」
「……」
 無言で顔を下に。
「いや、そっちじゃない」
 さて、皆さんも寒い時に胸の先端が固くなる事はないだろうか。俺はある。しかも今。別に性的な興奮などがあるわけではないのだが、恐らく気温のせいで固くなっている。
 余談だが、男は授業中などに何の理由もなく下半身の一部が膨張する事もある。完全に余談であるので今回は割愛しよう。
 ともかく、寒いせいで胸の先端部分が固くなってしまい、それがシャツに擦れてかゆい、とそう言う事だ。
「少し待って」
 長門は後ろを向き、何やらもぞもぞと体をよじらせてから、再び俺の方を向いた。
「……」
 と、長門は制服の隙間からおもむろに手を突っ込み、胸の辺りをまさぐる。
「く――」
「動かないで」
 でも、長門が――こんなところで――こんな――
「終わった」
 俺の両胸に何かが付いているのがわかった。これは一体?
「絆創膏」
 確かに絆創膏を貼れば胸の先端が保護され、シャツと擦れる事もなくなるだろう。
「ありがとよ」
「いい」
 頭を撫でてやると、長門は嬉しそうに首をすくめた。


 この時、俺は気が付いていなかった。
 絆創膏が最初から生暖かかった事に。