今日の長門有希SS

「あー、もう!」
 放課後、いつものようにのんびりと過ごしていた俺達だが、ハルヒのその声で部室の空気が張りつめた。
 先程からどことなく余裕の無い顔だった古泉だが、盤上の戦況ではなくハルヒの機嫌が原因だったようだ。しかしまだこいつが部室にいると言う事は、致命的な状況ではないのだろう。
 部室を見回すとまず仏頂面のハルヒが目に入り、更に挙動不審の朝比奈さん、そして全く動じていない長門。ある意味では見慣れた光景であるが、あまり慣れたいものじゃない。
 さて、今回ハルヒは何をイラついているのか。視線で訴える古泉や朝比奈さんに促され、俺は立ち上がってハルヒの横へ。
「どうしたんだ、ハルヒ
 パソコンを覗き込むと、真っ白な画面に何やら大量の線が引かれていた。絵を描いているにしてはちょっと妙だな。
「これ難しいのよ」
 俺にしてみりゃ、お前が何をしているのか理解する方が難しいけどな。
「ちょっと見てなさいよ」
 マウスカーソルを動かし、画面の上にあった三角をクリック。
 すると、画面に小さい人が表示される。何か乗り物に乗っているようだが……
「ソリよ」
 その小さなソリに乗ったキャラは、画面に描かれた線の上を滑っていく。坂を落ちて行きながら加速し、ぐにゃりと曲がったところで大きく飛び出し――壁に衝突してズルズルと落ちていった。
 ……これで終わりなのか?
「うまい人はこうなるのよ」
 と、ハルヒが画面を切り替えて動画を再生する。ハルヒがやっていたのと同じゲームを撮影したようだが、音楽にあわせて複雑なコースを駆け抜けている。空中で回転したり、落ちていったかと思いきや垂直に切り立った崖の壁面に着地したり、先程のハルヒがやっていたジャンプして即死するのと同じキャラとは思えない動きをする。絵が同じだけで別のゲームなんじゃないのか?
「うまく位置を調節すればこれと同じ事が出来るはずなのよ」
 で、ハルヒはそれが出来ずにイラついて叫んだわけか。大人気ない事この上ない。
「簡単そうに見えるけどな」
 スイスイとコースを疾走するソリを見ていて、ぽろりとそんな言葉が漏れた。しまったと思った時にはもう遅い。
「じゃああんたが作りなさいよ!」


 とまあ、そんなわけで俺はハルヒの視線を背中に感じながらコースを作らされる事になった。俺達のやりとりを聞いていた朝比奈さんや古泉もこちらに来ようとしたのだが、ハルヒが「キョンの素晴らしいコースが出来るのを楽しみに待ってましょう。あれだけ大口を叩いたんだから、絶対にすごいのが出来るわよ」との言葉により、団長机よりこちらに来られなくなってしまった。
「つーか、楽しみにしてるならお前もあっちに行けばいいんじゃないか」
 背中のプレッシャーに耐えかねてそう言うが、
「サボるかもしんないでしょ。あたしが監視してるからちゃんとやりなさいよね」
 などと却下されてしまった。
 そんなわけで、俺はこの針のむしろのような状況でコース作りを続ける事になった。