穴埋め小説「ムービーパラダイス」27

 全くツイてない。
 そう、俺は吐き捨てた。


 とりあえず、状況を整理してみよう。ツイて無いとしか言い表せないこの状況を。


 まず、俺の手にはビデオテープが握られていた。裸の状態ではなく、きちんとパッケージングされたビデオテープだ。
 そして、俺の周囲には小さな金属の塊が飛び交っている。いわゆる銃弾。


 すなわち、俺はビデオテープを片手に持った状態で、銃弾が飛び交う中に立っているのであった。



「安藤のせいだな」
 車の後ろに隠れたまま俺はとりあえず安藤のせいという事にした。こんな時間に外を出歩いていたのは大きな意味では安藤が悪いのであり、飢巣譚に出くわした原因は安藤にある。
 安藤のせいという事にしたのはいいとして、とりあえずここを切り抜ける必要がある。切り抜けなければ死ぬ可能性すらあるのだ。なぜなら飢巣譚達は西部劇に憧れるが故に実弾を使用してガンマンを撃つが故、今も銃弾が飛び交っている。射撃能力が低いのと頭が悪い為に障害物の反対側にいれば安全なので良いのだが、このままここに居続けるわけにもいかない。
 俺は懐からベレッタを取り出して銃弾を込めた。こちらは実弾ではなく、硬質ゴムで作られたスタン弾だ。思い切り殴る程度の攻撃力を有しているが、よほどの事が無ければ相手が死ぬことは無い。至近距離からテンプルあたり撃ち込めば死ぬ程度だ。
 俺は慎重に体をずらし、車のかげから顔を出す。


 バキューン、バキューン!


 途端、そこに銃弾が集中するが、俺は素早く頭を引っ込めてやりすごした。
 それで敵の位置を確認した俺は、後ろ手に銃だけを死角から出して当たりやすそうな位置にいた男に向けて発砲する。
 ダン!
「ぐぁっ!」
 同時にうめき声が聞こえる。こちらからは見えないが、西部劇チックにスローモーションで崩れ落ちる姿が目に浮かぶ。
「こ、この東洋の魔女め!」
 仲間を一人倒されて逆上したイーストウッドが叫びながら銃を乱射する。俺は魔女じゃないのだが。
東洋の魔女共め!」
 続いて部下達が叫びつつ乱射。複数形なのが謎だ。
 このような奇人達と戯れている時間はないので素早く退治したいものだが、武器の威力に差があるので少々厄介だ。何しろ相手が実弾を使用している状況でこちらは殺傷能力のほぼ無いゴム弾であるが故。
 実際、先ほど俺が撃った男ももう復帰しているだろう。この弾で相手を昏倒させるならばかなりの至近距離から撃ち込むか、この距離ならば正確にテンプルあたりを撃つ必要がある。しかしこちらを向いている人間のテンプルに弾をあてる事は不可能に近い。


 さて、どうしたものか……