今日の長門有希SS

 前回のあらすじ。


「あなたの精液の方が苦い」
「ちょっとキョン! どういう事よ!」
「シェーキだ! 抹茶のシェーキの方が苦いって言ったんだ! 長門、そうだよな!」
「違う」
 肯定しろよ。


 と、そんなこんなでハルヒを納得させる事に成功した。しばらく俺達の方をにらみ付けていたハルヒだが、最後に「手を出したら死なす」と捨て台詞を残して自分の席に戻った。ハルヒは団員をそれなりに気にかけており、朝比奈さんや長門は悪い男に騙されるんじゃないかと思っているふしがある。そして、俺がその悪い男に思える事もあるらしい。
 まあ、実際俺と長門は交際しているわけだが、別にそのようなやましい気持ちで交際しているわけではない。いや、それなりに大人の交際はしているが。
「……」
 これは長門ではなく、ハルヒである。自分の席に戻った後も、何やら不機嫌そうな顔で部室内を見回していた。
「あ、あの。どうぞ……」
 空気を変えようと、朝比奈さんが少しだけ引きつった笑顔を浮かべてハルヒの机にお茶を置く。先程のは古泉が飲み干したので淹れ直したお茶だと思われる。
「ありがと」
 ハルヒはお茶を口に運ぶ。こちらをじっとりと見つめたまま。
「そうだぁ! お茶菓子があるんですよ!」
 努めて明るい声を出した朝比奈さんが、棚に置いてあった四角い缶を取り出してテーブルの上に置く。蓋を開けると袋詰めされた煎餅が整然と並んでいた。
「ふうん」
 湯飲みと椅子を持ったハルヒがこちらにやって来て、俺の横に椅子を付ける。ハルヒは何やら言いたそうに俺を見ていたが、しばらくして飽きたのか煎餅に手を伸ばして食べる。
「あの、どうですか?」
「まあまあね」
 ハルヒはお茶に口を付け、
「でも、あたしは甘いものの方がよかったかも」
 やれやれ、ワガママな奴だな。こうして学校でお菓子を食べている時点でそれなりに優雅な生活だと思うのだが。
「やっぱりそうですよね」
 顔を伏せる朝比奈さん。いや、十分おいしいですよ。
「僕は甘い物より塩味の利いたものの方が好みですね」
 と、先程に引き続き朝比奈さんをニヤけたハンサム野郎がフォローする。まあ、それで朝比奈さんの顔に笑みが戻るから良いのだが、こうしているとホストか何かのようだな。
「なによ、あたしが悪いみたいじゃない」
 ぷくっと頬をふくらませたハルヒが煎餅をまた一つ取って口に運ぶ。
「別にまずいとか言ってるわけじゃないのよ。ただ、お茶には甘い物の方が合ってるかと思っただけだもん」
 まあ確かに苦い物には甘いものの方が相性がいいような気がするな。
「ほら、有希も食べなさい」
「……」
 ハルヒの指示により、長門が読書を中断して煎餅を一枚取り、ぴりぴりと包装を剥がして口へ運ぶ。
「有希は甘いもののと塩辛いもののはどっちがいい?」
「……」
 首を傾け、
「それより、わたしはすっぱいものの方が」
 と、お腹を押さえて俺の方に顔を――
キョン! あんた有希に何してんのよ!」
 ハルヒが馬乗りになって、俺の首に手を――ぐぁ、息が出来ん!