穴埋め小説「ムービーパラダイス」26

 ビデオを取りに家に帰ると、テレビではタモリが大暴れしていた。
 いつもの事だ。素人が面白い声を出したのが面白くなったタモリが、それと競うかのように面白い声を放つ。その音が響きわたればブルースは加速していく。
 そして、他の出演者もそれにのっかり、事態の収拾がつかなくなっている。
 まあ、タモリはどうでもいいので、俺はビデオを持って外に出た。
 そう言えば、タモリがやっているという事は、普段は昼食を食べているような時間か。丁度、安藤の発言がきっかけでビデオ屋に行く事に決まったのが丁度今頃。
「ん?」
 家から出たところで、嫌な音が聞こえてきた。いや、聞き間違いだと思うというか、聞き間違いだと信じたい。


 パラララララララララララー!


「くそ……」
 それはゴッドファーザー愛のテーマだった。よく暴走族などがクラクションで奏でるアレだが、それはトランペットで演奏された音楽だった。
 それで、俺はその音の正体がつかめてしまった。
ウェスタンか……」
 俺は小さく毒づいて道の向こう側を見つめる。その向こうからは砂埃がわき上がっていた。
 飢巣譚エスタン
 この魔界都市に存在する暴走族の一グループに過ぎないのだが、その特殊性から多くの区民に知られている。
 砂埃の向こうから、飢巣譚の姿が見えてきた。
「ハイヨー!」
 そんなかけ声と、高らかに響く蹄鉄の音。そしてゴッドファーザーのトランペット。
 飢巣譚のメンバー達が乗っているのはバイクではなく、馬なのであった。そのため、警察もどのような罪で取り締まって良いのか少々戸惑っていると聞く。
 飢巣譚とは西部劇マニアが高じて馬に乗って爆走するようになった集団だ。西部劇のファッションに身を包み、昼夜を問わず街を走り回る。
「ハッハー!」
 十人ほどのライダーが俺の前に止まった。服装はテンガロンハットに茶色のチョッキ。そして全員髪の毛を金髪に染めているが日本人だ。
 先頭にいた男がゆっくりと俺に近づいて来る。否、乗っている馬を俺に近づけてくる。
 それは飢巣譚のリーダー、イーストウッドだった。イーストウッドは顔をしかめて俺を見つめてくる。
「貴様ガンマンだな?」
 飢巣譚はあまりうるさくない事と一般人には何もしない事で比較的安全な暴走族とされているが、ガンマンに対してだけは容赦がない。そして俺は奴らに言わせるところのガンマンであるらしい。
「決闘だ!」
 と言うと、飢巣譚達は腰に装着したホルスターから銃を抜いて俺に向けた。多勢に無勢で、これでは少しも決闘ではない気がする。
「食らえ!」
 イーストウッドが叫んだ瞬間、俺は近くにあった車の裏側に隠れる。