今日の長門有希SS

「どうぞ、お茶です」
 メイド姿の朝比奈さんが天使の笑みを浮かべて静かに湯飲みを置く。
「ありがとうございます」
 今日は日本茶だ。ここのところ紅茶が続いていたから、朝比奈さんが淹れてくれた日本茶を飲むのは久々である。
 湯飲みをそっと手に取り、ゆっくり口に近付けて傾ける。
「ん……?」
 なんとなく苦いような気がする。いや、久々だからそう感じるのかも知れないが……
「みくるちゃん、ちょっと濃いんじゃない?」
 朝比奈さんはハルヒの指摘に一瞬驚いたような顔をしてから、自分のお茶を飲んで「ほんとだ」と見てわかるほどに落胆する。
「大丈夫よ、別にまずいってわけじゃないから。みんなもそうでしょ?」
「ええ、僕はこれでもかまいません」
 古泉はいつもの胡散臭いニヤけ顔で湯飲みに入っていたお茶をくいっと飲み干し、
「よろしければ、今残っている分は僕がいただいてもよろしいですか?」
「あ、はい」
 朝比奈さんはぱたぱたと急須を取って古泉の湯飲みに――並々と注いだ。
「ごめんなさい、思ったより入ってて……」
「大丈夫ですよ」
 先程より少々ニヤけ減の古泉は、湯飲みを持ち上げようとしたが「おっと」と言って断念。さすがに量が多すぎて持ち上げられないようだ。
 どうするのかと思っていると、古泉は笑みを顔に張り付かせたままテーブルに置いた湯飲みに口を近付け、ずるずるとすする。
「行儀悪いぞ」
「すいません。持ち上げられないもので」
 胡散臭い笑顔のまま顔だけを前に突きだしてお茶をすする古泉というのは、正直少々不気味である。こうして真正面で見ていると尚更だ。
 しばらく飲んだところで量が減ったので、古泉は湯飲みを持ち上げて飲み始める。
「おや、そのような顔をなさらないで下さい。これで問題ありません」
 古泉が急須を持ったまま申し訳なさそうにそこに立っていた朝比奈さんにいつもの胡散臭いニヤけ面でそう微笑みかけると、
「ごめんなさい。もう一杯分くらい残ってて……」
「そうですか」
 古泉は再びくいっと湯飲みを空け、朝比奈さんが並々と注ぎ――もうこいつの顔が迫ってくるのを見るのは飽きたので、俺は部室を見回す。
「……」
 長門がいつも通り読書をしていた。集中しているのか、お茶に手を付けていない。
「あ……」
 朝比奈さんもそれに気付いたらしく、少しだけ不安そうに顔を曇らせた。ちなみに古泉はまたずるずるとお茶をすすっている。
長門
「……」
 ゆっくりと本から視線を上げ、顔を傾ける。
「お茶飲んでみろ」
「……」
 しばらく部室を見回してから、長門はゆっくりと湯飲みを持ち上げて口へ運ぶ。
「別に苦くないよな?」
「……」
 しばらく視線を宙に彷徨わせてから、
「それほどでもない」
 その言葉に朝比奈さんがほっと胸をなで下ろす。
 そして長門は、
「あなたの精液の方が苦い」
 と、余計な言葉を付け加え、団長席からハルヒが俺に向かって飛び掛かってくるのであった。