今日の長門有希SS
「キョンくんキョンくん、いんぜーって何?」
ある日、妹が突然そんな質問をしてきた。
そう言えば、我が妹はCDを出すことになったんだった。それほど売れるとは思えないが、もしそれで妙なファンが出来て、そいつがストーカーにでもなったらと考えると少しだけ心配である。
「本やCDが売れたら作った奴に入ってくる金だ。歌手の場合は一パーセント程度らしい」
「ふーん。CDが千円だから、一枚売れたら十円もらえるの?」
「そうだ」
改めて一枚あたりの金額を考えてみると、こいつに入ってくる印税は雀の涙的な金額になりそうだ。小学生にとってはかなりの金額だが。
「結婚資金、とか言ってたな」
母親は印税を残しておいて、将来の結婚資金にしたいとか言っていた。生活費として使い込んでしまった時の言い訳ではない、とは思いたいがどうなることか。
「それじゃあ、キョンくんの方が豪華な結婚式になりそうだね」
妹が屈託なくニコニコと笑っている。
何を言っているのかと思ったが、それで俺は自分もCDを出すことが決定していたことを思いだして少しだけ憂鬱になる。
しかし、俺のCDを買うほどマニアックな人間が世の中にそれほどいるとは思えない。どちらかと言うと、妹のCDを求める人間よりも少数派ではなかろうか。
「どうしてそう思うんだ?」
「だって」
妹はニコリと笑い、
「二人分だもん」
「……ってな事があったんだが」
二人きりの部室。昨日の家での会話をなんとなく長門に話してみた。
「そう」
長門はちまちまときんぴらゴボウを口に運び、最後にお茶に口を付け、
「わたしのはそこまで残るかわからない」
などと言った。
「何か使うあてでもあるのか?」
「今までの事を考えると、結婚の前に使う可能性が高い事柄が一つ」
長門には物欲などが皆無だと思われるが……
「どちらかというと、わたしよりもあなたの行為によって決まる」
それは、一体……
「出産費用」
いや、さすがに結婚式の前に出産するような事態には……
「九ヶ月以内に使う可能性もある」
「……どういう事だ?」
「今月、ないの」