今日の長門有希SS
昨日からうっすらと続いてます
テスト勉強というのは学生にとって苦痛極まりないものであるが、今回に限っては普段よりその苦痛も緩和されていた。それというのもテスト期間とのことでハルヒがSOS団の活動を一時的に勉強会にしてくれたおかげであり、そのおかげで勉強でわからないところがあれば長門に聞く事が出来る。
もっとも、
「あんたそんなのも分からないの? まったく、しょうがないわねぇ」
などとハルヒが押しつけがましく勉強を教えてくれる事もあるので、毎回というわけではないのだが。
ちなみにハルヒだが、態度こそ悪いが教える技術については申し分ない。天才肌の奴は自分が努力しないでも出来てしまうから他人がつまづく部分がわからないという話もあるが、こいつの場合は問題ないようだ。
「どうぞ、お茶です」
朝比奈さんは自分も勉強しているはずなのだが、いつものようにメイド姿で定期的にお茶を注ぎに来てくれる。おかげで勉強する環境については申し分ないわけであるが、その分朝比奈さんの勉強時間が削れてしまうのは困ったものである。
一通り巡回した朝比奈さんは、鶴屋さんの前に戻って勉強を再開。学年が違うので二人は別の机だ。
「ん、どうしたんだいキョンくんっ?」
俺の視線に気付いたらしく、鶴屋さんがニコリと笑って問いかけてくる。
「不思議な光景だと思いまして」
「そーかい、似合ってないのかなっ?」
と、鶴屋さんは衣装をつまんで首を傾げる。
「いえ、そんな事はないですよ」
「うれしいねえ、ありがとさんっ!」
ちなみに鶴屋さんだが、朝比奈さんのメイド姿に合わせてなぜかウエイトレスの恰好をしている。俺が到着した時点で朝比奈さんだけでなく鶴屋さんも着替え終わっていたので、その事情はよくわからない。
まあ、別に意味はないと思うのだが。
「キョン、デレデレしてないでちゃんと集中してやんなさいよね」
正面に座るハルヒがじとっとした目で見つめていた。いや、別にデレデレしていた覚えはないのだが……
チラリと隣の長門に目をやると、
「してた」
と、拗ねたようにボソリと呟いた。
さて、その翌日である。
「なんだこれは……」
部室のドアを開けたところで、俺はため息をついた。
「ただ勉強するより、気分変えた方が楽しいでしょ?」
バニーガール姿のハルヒがそこにいた。朝比奈さんは今日はナース姿で、鶴屋さんがチアガール。
そして、俺の定位置の隣にはカエルの衣装が置いてあった。
「衣装ではない」
そこから声がして俺は心霊現象でも見たような気になったが、それは聞き慣れた長門の声だった。だぼだぼの着ぐるみに入ったせいか、すっぽりと覆われてしまっている。
「前見えるのか、それ」
「見えない」
勉強の邪魔だから頭だけでも脱いでおけ。
「そう」
もぞもぞと動いて頭部を外すと長門の顔が現れる。しかし、長門の体は小さく、頭の下半分は着ぐるみの中に入ったままだ。まるで皮オペの広告写真のようだ。
「おや、みなさんお揃いで」
こちらは普段通りの古泉が現れた。
てっきりお前も妙な扮装をしてくるかと思ったが、最後の良心が残っていたか。
やれやれと肩を落として席に座ると、なぜか全員の視線が俺に集まっている事に気が付いた。一体、どうした事だ?
「あんたも着替えなさいよね」
ちょっと待て、古泉も普通の服だろ?
「いえ、お気づきになりませんか?」
と、古泉はアメリカ人のように両手を開く。いや、別にアメリカ人全てが常に両手を開いているわけではなく、いかにもアメリカ人がやりそうなジェスチャーって事だ。
「いつも通りだろ」
「ブレザーの下は夏服なんです」
ワイシャツが半袖って事か。わかるかそんなもん。
コスプレ衣装なんて持っているはずがない。ここにあるもので唯一着れそうなカエルは既に長門に使われており、残った衣装は……
「あんた、メイド服とバニーどっちがいい? 自分で決めないならあたしがで決めるけど」
と、その視線は明らかにバニーの方へ。
「メイド姿で勘弁してくれ」
不本意ではあるが、こちらの方がまだ露出が少なくてましだった。
結局その日は、事あるごとにニヤニヤしてハルヒに見られたり写真を撮られたりして、正直勉強どころではなかった。