今日の長門有希SS

 風呂場から出た俺は、体を拭くのもそこそこに下着を身につけて台所に向かう。冷凍庫を開けると、ひやっとした白い空気が出てくる。
「ん?」
 今日の夕飯の材料と一緒に買ってきたはずのアイスが見あたらない。一人用の小さなカップではなく、ファミリー用のやや大きめのアイスだから、すぐに無くなるものではない。
 まあ、ここに無いと言うことは、長門が食べているのだろう。俺は食器棚からガラスの小鉢と大きめのスプーンを持って、長門がいるであろうリビングに向かい――
「あ」
 カップに直接スプーンを突っ込み、アイスを食べている長門を発見した。
「残ってるのか?」
「……少し」
 すまなそうに差し出すカップの中には、スプーン一杯ほどのアイスが残されていた。
 しまった、長門の食欲を考慮に入れていなかった。まさか一回でほぼ全て食べきってしまうとは。
「……」
 なんとなく、困ったように俺の顔を見ている。
「楽しみにしていたのは確かだが、別にそこまでアイスに執着していたわけじゃないぞ」
「……」
 しかし、長門の表情は晴れない。いや、別に表情が普段と違うわけではないのだが、なんとなくだ。
「買いに行く?」
「湯冷めするからやめとけ。別に今無理に食わなくていいさ」
 そう言っておかないと本当に行きかねない。
 長門はしばらく沈黙し、
「そう」
 長門はほんのわずかに頷いてから、
「でも、湯冷めしそうなのはあなたの方」
 そこでようやく、俺はまだ服を着ていなかった事に気が付いた。


 それはともかく、今回も長門の部屋で夜を明かした。目が覚めた時点で隣に長門がおらず、飯を作っているのかなと思いながら台所に向かうと。
「何を作ってるんだ?」
 長門ハンドミキサーで牛乳らしきものをかき混ぜていた。朝食と言うより、お菓子を作っているように見える。
「アイス」
 昨日のことを気にして作ってくれていたのか。
「わざわざ悪いな」
「いい」
「どれくらいで出来るんだ?」
「冷凍庫で二時間」
 まあ、これから冷やしたら食べるのは食事のちょっと後になるな。まあ、デザートとしてはちょうど良い。
「それじゃあ、飯はどうする?」
 長門がアイスを作っているのなら俺が作ろうかと思ったのだが、
「もう大丈夫」
 長門は本当によくできたやつだ。俺なんかには勿体ないね、全く。
 そんな風に感心していると、長門は今までかき混ぜていたボールを冷凍庫に入れ、そして別のボールを取り出した。
「それは何だ?」
「二時間前に冷やしたアイス」
 なんだか、料理番組みたいだな。これは事前にオーブンで焼いておいたものです、と言うような。
「朝食」
 ……マジか?
「これだけじゃ足り無くないか?」
 さすがに食事がアイスというのはちょっと厳しい。
「大丈夫」
 長門は俺の顔を見上げ、
「一時間前に冷やしたのももう一つ入っているから」


 それから俺と長門で黙々とアイスを食ったが、二つ目のボールを空にしたところでさすがにアイスだけでは無理だという事になり、残りは今度朝倉や喜緑さんに食べてもらう事にしてパンを焼いて食った。