今日の長門有希SS

 前回のあらすじ


 夢の子が奔放で新しい謎の地を
 動き回るのを追って
 鳥や獣と親しく語る――


 鶴屋さんが持ってきた潜水艦だが、オゴポゴを警戒させてしまう可能性があるとのことで普段は別行動をしている。鶴屋さんは湖底に怪しい地形などがないかなど、上からでは困難な部分を担当している。
 また、こちらがオゴポゴらしきものを発見した場合は、潜水艦で追い回して捕獲用のネットの方に誘導することもあり得る。
「色々仕込んであるからねっ」
 そう自信満々で言っておられた。武器でない事を願う。
 水中の鶴屋さんとの連絡は長門がどこからか取り出した携帯型テレビ電話で行う事になった。
「ポケットから」
 そうか。
「二十二世紀の技術力を用いた携帯型テレビ電話。電力や電波については気にする必要はない」
 更にコードを接続する事により、こちらのモニターの情報や、あちらの情報が交換できるらしい。さすがだな、二十二世紀。
 長門の説明の最中、朝比奈さんは苦笑していた。朝比奈さんにとって、この携帯型テレビ電話は未来にあたるのか過去にあたるのか。
「ただし、二十三世紀の技術による妨害電波を受けた場合の動作は保証しない」
 と、長門はチラリと朝比奈さんの方を見る。
 二十三世紀の人なのか?
「知らない」
 これについては深く追求しない方が良いだろう、恐らく。
 ともかく、携帯型テレビ電話は現在ハルヒが面白がって鶴屋さんと無駄に交信している。特に何も無ければ船上も水中も暇だろうし、データを送る必要になるまでは放っておこう。
「あ、そうだ。鶴屋さん今日はすっごい部屋に泊めてあげるわ!」
 ハルヒの言葉に、嫌な予感がした。
 考えてみれば、これで男二人に対して女性陣は四人となる。そして、現在使える寝室が三つ……
 ハルヒ鶴屋さんの話に耳を傾けていると、男一部屋に女二部屋という部屋割りになっていくのがわかった。こうなると、今までのように長門と甘い夜を過ごすのが難しくなる。
 いや、今までだって何度か部屋以外で逢瀬を重ねた事はあるのだが、実はそれはスリリングなものだった。みんなが寝静まった後の風呂場で、屋上で、庭で、ベランダで、ボートの上で、路地裏で、とバリエーション豊富ではあるのだが、いかんせんリスクが高い。危うく見つかりそうになった事は一度や二度ではない。三度だ。
「……」
 長門が本を開いたまま、こちらに顔を向けているのに気が付いた。やはり同じ事を懸念しているのだろう。
 こうなったら、一刻も早くオゴポゴを発見しなければならない。やり場のない高ぶりをため込んでしまう事になるからだ。と言うか、もういいだろ?
「な、何かいるにょろっ!」
 そんな俺の祈りが通じたのか、鶴屋さんの叫びが響き渡った。
「何があったの!」
 ハルヒが携帯型テレビ電話に食ってかかると、鶴屋さんは何やら向こうでバタバタやっている。
「今、カメラの映像をそっちに送るよっ!」
 と言うと、ぷつんと映像が一瞬切れたかと思うと、何やら水中の映像になった。
 薄暗く、何やら影のようなものがあるような気がするが、よくわからない。
キョン、もっと見やすくしてよ!」
 俺に言われても困るんだが……
「モニターに繋げばいい」
 そうか、サンキュー長門
「もっと褒めて」
 よしよし。
「早く繋いでよキョン!」
 ハルヒに怒鳴られ、俺は長門の頭から手を離し、慌ててモニターのコードと繋ぐ。
 それで映像がモニターに映し出されるが、やはり見づらいことには変わりない。明るさなどを調整するものの、こちらの操作では限界があるようだ。
「あ、ライト点けるよっ!」
 テレビ電話からそんな声が聞こえた瞬間、
「なんだこりゃ!」
 モニターに奇妙なものが映し出された。
 水底を、二本足の何かが歩いている。人間がいるはずもない。それはまるで、いわゆる半魚人とでもいうかのような風体だった。
長門、アレは人間か?」
 近くにいた長門の耳に唇を寄せると、
「くすぐったい」
 と、首を引っ込めた。
「でも……いい」
 いや、そんな場合じゃないんだが。
「人間ではない」
 となると、あれは……やはり……
「近寄ってくるよっ!」
 字面ではわかりづらいのだが、鶴屋さんの悲痛な声が聞こえた。人間ではないという何かが、水底を歩いて鶴屋さんに近付いてくる。しかも、物陰に隠れていたが、それはもう一体いたようだ。
 頭部にひらひらと、何か海草のようなものが付着しているように見える。二体はカメラに近付いてきて……カメラに向かって手を振った。
 なあ長門、潜水服を着た人間のように見えるんだが……
「人間ではない」
 じゃあ一体?
朝倉涼子喜緑江美里


 時間も遅くなったので、その日の捜索はそこで終了になり、俺達はテントにいた。
「ちょっとこっちに用事があったの」
 ハルヒの質問に朝倉がそう答えた。
「父の葬儀の関係で」
 と明らかな作り話をする朝倉に、ハルヒは半べそでうんうんと首を振っていた。相変わらず、朝倉はハルヒの扱いが上手である。見習いたいくらいだね。
「で、あなたはどうして来たんですか?」
 他のメンバーに気付かれないよう、こっそり喜緑さんに声をかけると。
「テコ入れその二です」
 と、答えて下さった。
 やれやれ、この勢いじゃまだ増えそうだな……困ったもんだ。
「安心して」
 長門は俺の肩をぽんと叩き、
「その予感は正しい」