今日の長門有希SS

 前回のあらすじ。


 皮切ろうと思ったけど長門に止められてやめた。なんか下半身の筋肉を鍛えてくれって言われたよ。いい女だろ、長門って。


 PC筋、ピューボコクシギウス筋、会陰尾骨筋。
 呼び方はどうだっていい。要するに尿や便を途中で止めるための筋肉だ。止まるのは尿だけじゃなくて、他の液体だって止まる。他の液体だってな。
 で、それを止める方法が掲載された本を長門に渡された。わざわざ買って部室に置いておいてくれたなんて、ほんとに良い女だ。俺には勿体ないくらいだが、もちろん別れる気なんて無いぞ。長門は俺の大切な、その、恋人だ。
 鍛える方法は、まず実際に尿を止めて筋肉の働く位置を確認。うん、ここだ。
 しかし……尿を止めるってのも変な感じだな。なんというか、こう、ジワーっと――いや、まあそんな事はどうでもいいんだ。
 ともかく、これで位置は確認した。あとは定期的にここの筋肉を働かせれば良いんだな。
 そんなわけで、俺はその翌日から血の滲むような特訓を繰り広げる事になった。授業中、部室での食事中、放課後の活動中、何て事のない時にそこの筋肉に力を入れる。やりすぎると筋肉痛になるらしい。そのへんは他の筋肉と一緒だな。
 力を入れると、ピクピクと動く。とはいえ、ズボンの上からわかるようなもんじゃない。俺だけしかわからない程度に、だ。まあ、長門なら俺が力を入れている時はわかっているかも知れない。わかっていても、トレーニングをしている事は知っているから、別に問題はないけどな。
 ちなみに翌日、俺は筋肉痛になった。ちょっとハードに特訓をしすぎたらしい。筋肉痛になったら休む。それも一般的な部位の筋力トレーニングと一緒だ。PC筋だろうが上腕二頭筋だろうが筋肉は筋肉。鍛えるための方法論は一緒だ。
 筋肉を増加させるには、筋肉の破壊と修復を繰り返させればいい。筋力トレーニングを行うことによって筋肉は破壊され、それから一日から二日かけて修復される。この時に生じる現象を超回復という。何事もやりすぎはよくないって事さ。
「タンパク質もとった方がいい」
 長門はそう言って、弁当を食べる時にお茶ではなく豆乳のパックを差し出して来た。長門はいつものようにお茶を飲んでいる。
 確かに回復中にタンパク質は欠かせない。筋力を構成する栄養素だからな。
 豆乳を飲む機会がないからなかなか味に慣れないが、長門を悦ばせる為だから仕方ない。それに、俺の方の快楽も増すって言うじゃないか。一石二鳥。
「ところで、お前の方はそう言う筋肉を鍛えたりしないのか?」
 本を読んで知ったのだが、この筋肉を鍛えて性的に改善されるのは男だけじゃない。女だってそれに該当する筋肉が存在するって話だ。まあ、まだ完全に読み尽くしたわけじゃないんだけどな。
「わたしの方はその筋肉を鍛える必要はない」
 まあ確かに、そうかも知れないな。だって長門は今でも十分に狭――いやまあ、そう言う事だ。
「もし、お前がその筋肉を鍛えたらどうなるんだ?」
「……」
 長門は俺の顔をじっと見て、
「ぺしゃんこになる可能性がある」
 痛い痛い痛い痛い!
 俺は一瞬それをリアルに想像してしまい、腰から背中にかけて冷たいものが駆け抜けた。
「頼む、やらなくていい」
「わかった」
 長門はコクリと頷いてから、
「あなたが浮気をしなければ鍛えない」
 あり得ない事ではあるのだが、どうやら俺は浮気をすると男性自身を失う羽目になるらしい。母さん、怖くてたまりません。


 さて、筋肉痛が治まったら再びトレーニングだ。それからは筋肉痛になるまでハードなトレーニングは控え、継続して毎日繰り返すように調整する。いや、どっちが本当に効果的かはいまいちわからないんだが、妙な場所が痛くなるのが嫌なだけだ。
 しばらくその修行を続け、ある日俺達はその成果を確認する事にした。その日は肝心な時に力を発揮できるように筋肉を温める程度の軽度なトレーニングにし、本戦に臨む事にした。前日からそのように決めた。
 しばらくトレーニングに勤しんだ事もあり、ここのところ長門とそういう行為に至らない日もあった。そんなわけでエネルギー充填も百パーセント。
 俺の名はキョン。通称キョン長門の達人だ。大統領だってぶん殴ってやるぜ、だけど飛行機だけはカンベンな。
 さて、そんなわけで俺達は長門の部屋に到着。飯を作って食う時間すら惜しい。俺の理性が飛んでしまえば、食欲より先に他の欲を満たしたくなってしまうかも知れない。ああ、睡眠欲じゃないぜ。もう一個のやつだ。
 それを同時に満たせる料理もあるらしいが、さすがに長門の体に食べ物を置くなんて……いや、いいね、それ。
 ともかく、俺達はこれから長門の部屋に入ってしまうわけだ。部屋に入ってしまえば誰にも邪魔されない。いいのか? いいよな。
 そして、幾度目かの楽園の扉が開かれる。
 しかし、いきなり長門に手を出すのは早計だ。やはり飯くらいはちゃんと食った方がいいよな。
 そんなわけで俺と長門は台所で並んで料理をすることにした。制服の上にエプロン姿の長門、いいね。たまらないね。
 しかし、俺はそこで踏みとどまった! 褒めてくれ、俺は踏みとどまったぞ。俺にだって理性ってもんはあるのさ。
 そして、俺達は作った飯をテーブルに並べる。これを食ったらあとはデザートだ。
 デザートは何かって? 言う必要はないだろ? デザートは俺だ。長門にとってのな。
 そして、今まさに飯を食おうとした時、


 ぴん、ぽーん。


 インターホンが鳴り響く。こんな時間に来客とは一体誰だ。新聞や宗教の勧誘だったら怒鳴って追い返してやろう。
 しかしながら、それは新聞でも宗教でもなかった。
「お邪魔していいかな?」
 何やら箱を持って問いかけてくる朝倉と、
「お邪魔します」
 スタスタと勝手に入ってくる喜緑さんだ。
「ちょっとケーキを買ってきたんだけど、あがっていいかな?」
 上がっていいも何も、既に緑パーマ先輩は中に入ってしまったんだ。ここで朝倉を追い返すのもおかしいだろ。
「入っていいぞ」
「うん、ありがとう。お邪魔します」
 そして、俺と長門は飯を食い、朝倉と喜緑さんはケーキを食っているという状況だ。
「ふふふっ、そんなに見てもあーんとかはしませんよ」
 いや、別にそのような行為を求めたわけでは――痛っ。
「あーん」
 長門が肉を箸でつまんで差し出してくる。
「……」
「……」
「……」
「……」
 いや、二人きりならなんともないんだが……さすがに見られてると緊張する。喜緑さんはニコニコと楽しむように、朝倉は顔をほんのりと赤らめて目を丸くしている。
 まあでも、食わなきゃいけない。俺はパクリとそれを口に入れる。
「うわー! うわー!」
 いや、叫びたいのは俺なんだ、あんまり大声を出さないでくれ朝倉。
「バカップルですね」
 元々、あなたが原因を作ったんですからね、喜緑さん。


 嵐のように食事の時間は過ぎ去った。飯を食い、朝倉達の持ってきたケーキを食った。バタバタしすぎて味もよく覚えちゃいない。
 そして、もう夜も遅くなってきたわけだが……
「今日はいい月ですね」
 何故か帰らない喜緑さんが窓の外を見てそう言った。朝倉も帰ってない。困ったもんだ、早く長門と二人きりにして欲しいもんだが、帰ってくれとも言いづらい。
「今日は泊まって行こうかなー」
 俺がいない時は何度か泊まっているらしいが、今日だけは正直勘弁して欲しい。いやまあ、部屋の主でない俺が言えた義理じゃないんだが……今日は俺、家には帰らないって連絡してるから、今さら家には戻れなくてだな……
「別にキョンくんがいても良いよ」
 いや、そんなこと言われてもだな、いくらなんでも……
キョンくんなら安心だし」
 まあ、信頼されてるのは良いことだ。それに俺は浮気をすると男のシンボルの厚みが無くなる事もわかっているから浮気をするつもりも無いしな。
 でも、今日は――
「やっぱり、トレーニングの成果を今日試したい?」
 朝倉がニコリと笑った。
「なんか、毎日鍛えてたみたいだね。わかっちゃった」
 俺が妙なところに力を入れていたのは、同じ教室にいた朝倉には分かっていたという事か。
「やっぱり、そうなると気になるのが親心ですよね」
 と言って話に加わってくるのは喜緑さん。そんな親心はいりません。そもそもあなたは俺の親ではありません。
 何だか二人は俺を取り囲むようにして、帰る様子は見られない。
「わたしには有機生命体のPC筋の概念がよく理解出来ないけど」
 いやまあ、それをわかってる奴は少ないと思うけどな。
「つまりですね、鍛えてる人を見ると、邪魔したくなるわけですよ」
 あなた……鬼ですね、喜緑さん。


 ともかく、二人はそれからなかなか帰る事はなく、トレーニングの成果を実感するのはそれからしばらく後になった。