今日の長門有希SS
買ってきた食材と、冷蔵庫にあった食材をテーブルに並べる。俺達の分では(長門の食う量を考慮すると)足りないが、朝倉の持ってきた食材をあわせると問題ない。つまり、朝倉が持ってきた食材がそれだけ多いわけだ。
「買いだめしてるだけだからね」
チラリと見ると、朝倉はニコリと笑ってそう言った。いや、別に誰も一食で食うには食いすぎだとか、だから体重が……とか思ってないぞ。なあ、長門。
「だから太る」
ってオイ。
「やっぱり自分の部屋で食べようかな」
持ってきた食材を袋にまとめ始めると、
「ごめんなさい」
長門はぺこりと頭を下げた。
まあ、そんなこんなはあったが夕飯を作り始める。朝倉がハンバーグ用の挽肉をこね、俺と長門でサラダやコーンポタージュを作ったりとその他の料理を作る。俺達は普段それほど手間のかかる料理は作っていないが、食材提供者の朝倉が言いだしたのでそれに従う事になった。
「だって、一人で食べる時はこんなに作れないもん」
さすがに普段からこのような料理を作っているわけではないらしい。確かに手のかかる料理を作って自分だけで食っていると、妙に寂しい気分になりそうではある。それに、一人分をわざわざ作るのも面倒そうだ。
サラダはまあ野菜を切ったり千切ったりして盛りつけるだけなのですぐに完成したが、問題はコーンポタージュだ。小麦粉とバターを混ぜたものを鍋でしばらく炒めてから、朝倉が持ってきた牛乳やらコーンの缶詰やらコンソメなどを混ぜる。なかなか手間のかかる料理である。
「じゃあ、それぞれ自分の分のハンバーグ作ろうか」
後は火にかけて放置するだけとなったので、朝倉に従って肉を分けて形を作る。火が通りやすいように真ん中はへこませる、らしい。
「……」
オーソドックスに楕円型のハンバーグを作っていると、長門は無言で正方形のハンバーグを作っていた。火が通りやすいのか通りづらいのかわからないが、とりあえず立方体にしなかった事は褒めてやった方がいいだろうか。
「お前のは何だ?」
朝倉は何やら円形にボコボコと出っ張りがある形を作っている。
「ふふっ、何に見える?」
いや、わからないから聞いたんだけどな。
「メリケンサック」
なるほど、確かに見えないこともないな。よくわかったな長門。
「違う……」
絞り出すような朝倉の声に、長門は残念そうに首を捻ってから、
「そのような形状の武器は他に思い浮かばない」
武器限定なのか。
「……猫だもん」
ああ、言われてみれば見えない事もない……な。
チラリと長門を見ると、珍しく驚いた様子だった。
ともかく、それぞれ作ったハンバーグを朝倉がフライパンで焼き、俺と長門で皿やスープ皿などを用意する。
「あ」
長門がぽつりと声を出したので目をやると、長門はドレッシングの容器をのぞき込んでいた。
「足りない」
確かに、ドレッシングは残り少なくなっていた。まあ別にマヨネーズなんかでも食えない事はないんだが。
「せっかくだから、妥協しない方がいいよね?」
お前の部屋から持ってきてくれるのか?
「作れるよ、ドレッシングなら」
そう言った朝倉は、テキパキと調味料を取り出して並べる。酢、サラダオイル、塩、コショウ、それと玉ねぎ。
「ちょっとこれすり下ろして」
皮を剥き、四分の一ほどにカットした玉ねぎを渡されたので、俺は指示されるままに下ろし金ですり下ろす。
目にしみる。
その間に朝倉が調味料を混ぜ、長門は、
「……」
やることがないので、ぼーっと俺の手元を見ていた。
「ちょっとやるか?」
「……」
コクリと首を縦に振るので交代。
「うん、こんな感じかな」
朝倉は長門の方に顔を向け、
「じゃあ、それも混ぜよっか」
長門と俺ですり下ろした玉ねぎを混ぜ、最後に朝倉は再び味見をして満足したようにニコリ笑った。
「……」
ゆっくりと長門が手を伸ばすが、朝倉はドレッシングの容器をさっと体の後ろに隠す。
「食べた時のお楽しみ」
まあ、それについては俺も同意しておこう。どうせすぐ食べるんだしな。
さて、ようやく料理が揃い、俺達は食卓を囲む。
ドレッシングを作ったりしていたのでハンバーグは熱々とはいかなかったが、肉汁も多くうまく焼けていた。ポタージュも問題ない。
問題のドレッシングも、市販のとは違うがそれでもかなりのもんだった。
「美味しいでしょ?」
ああ、なかなかのもんだな。結婚したら良い奥さんになれるぞ。
「え」
すると、朝倉はしばらくぽかんと口を開けてから、
「それってプロポーズ?」
いや、そう言うわけじゃないんだが……て、痛っ。
「……」
何やら寒気を感じたかと思うと、長門が俺をつねりながらこちらを見ていた。