今日の長門有希SS

 集団下校も終わり、各自それぞれ解散してから俺は長門と合流する。最近じゃ学校から真っ直ぐ家に帰る事はほとんど無くなっているが、実際のところはどれくらいこっちに来てるんだろうね。長門に聞けば正確な回数を教えてくれるかも知れないが、聞かない方がいいような気がしてやめた。
 直接長門のマンションに向かうのではなく、まず食材を買い込むためにスーパーへ。残っている食材を考えながら俺達は買い物カゴに品物を入れていく。
「あ、キョンくん達も来てたんだ」
 後ろから声をかけられる。聞き慣れた声だ。
 振り返ると俺達同様に買い物カゴを持った朝倉がいた。そう言えばこの店で朝倉に会うのは珍しい。部活動などに所属していない朝倉は、俺達とは店に来る時間帯が違うのだろう。
 いやまあ、俺達も厳密にはちゃんとした部に所属しているわけではないのだが。
 朝倉はチラチラと俺の持つカゴの中をのぞき込む。
「やっぱり、ちゃんと作ってるんだね」
 朝倉は感心したようにうんうんと頷いている。
「昔は全然料理しなかったのに……うん、すっかり健康的な食生活ね」
 そう言えば今じゃ自分でも作るようになったが、長門は元々料理をしていなかった。以前はコンビニで弁当を買ったりレトルト食品を食べたり、確かにあまり健康的とは言えない。
 そんなわけで以前は俺ほどの頻度ではないが朝倉が作りに来ていたと聞く。朝倉が来る頻度が減ったのは、朝倉が不在だった間に俺が長門の部屋に入り浸って飯を作るようになったからだ。
「でも、いつもあんなに食べてるのに、長門さんは太らなくて羨ましいなあ」
 確かに長門はいくら食っても体に脂肪が付く事はない。対する朝倉はそれなりに肉が付くらしく、食べ物にはそれなりに気を付けているようだ。
 とはいえ、ケーキなどを持って遊びに来る事も多いので、甘い物というかお菓子全般にコロっと負けているようだ。
「体質が違うのかしら?」
 朝倉は長門の腕を触ってふうとため息。スレンダーな長門は二の腕などにも肉が付いていない事を俺は知っている。
「体質ではない」
 長門はチラリと朝倉の足に目を落とし、
「わたしの体内で生成された脂肪をあなたに転送しているから」
「……」
 しばらく朝倉はぽかんと口を開けて絶句し、
「あんたのせいだったのかーっ!」
 スーパー中の客及び店員の視線を集めるほど絶叫した。


 朝倉が絶叫して注目を集めてしまったので、俺達はそそくさとスーパーを後にした。
 長門が言ったのが真実かどうかはよくわからないが、朝倉はプリプリ怒りながら俺達の少し前を歩いている。まあ、冗談だとは思うが。
 しかし、買い物の途中で会計して店を出たせいであまり食材を買えなかったのは困ったもんだ。朝倉は買い物が終わっていたみたいだが。
 さて、どうしたもんかね。
「……」
 横を見ると、長門は涼しい顔をしている。お前はいいのか? 今日は飯をあまり作れないと思うんだが。
「それは困る」
 だよな。
 しばらく歩いてから、前を歩いていた朝倉がピタリと足を止めた。
 どうしたのかと思って立ち止まると、くるりと振り返ってこちらに歩いてきた。
「今日、久しぶりに作りに行く?」
 長門は朝倉の顔をじっと見つめ、
「お願い」
 ぺこりと頭を下げた。