今日の長門有希SS

 ここのところ日が落ちるのが早くなり始め、学校を出る頃にはもう夕暮れを通り越して夜と言っても良いような空。寒くなり始めというのは服装に困るもので、つい油断して天気予報などを見忘れると、寒い中を上着も羽織らず歩かなければならない事をある。
 今日の俺がまさにそれだ。朝は教室でハルヒのやけに暖かそうな上着を見て季節はずれだと思ったもんだが、どちらかというと季節はずれは俺の方だったらしい。いつもの活動が終わってSOS団で集団下校をしている中、俺と長門だけ寒そうな格好だった。
「……」
 チラリと長門を見るが、俺のようにポケットに手を突っ込んで軽く震えることもなく、至って平静でいつも通り。痛みなどに耐性があるのはわかっているが、どうやら暑さ寒さにも耐性があるようだ。
 しばらく歩いてから、いつもの場所で解散。朝比奈さんが明日までとマフラーを貸してくれようとしたが、ハルヒの「甘やかしたらキョンの為にならない」とのありがたいお言葉で却下されてしまった。確かに痛い目を見た方が後々油断しないで気を付けるようにはなるかも知れないが、既に十分に俺は痛い目を見ているんだ。もうこの辺で勘弁してもらえないもんかね。
 しかしそれを発言したところで状況は改善されないだろうし、俺はふうとため息をついて家に向かって歩き始めた。
 しばらく歩いてからくるりと回れ右、小走りで家とは違う方向に向かう。
「……」
 そこには当然のように長門が待っている。俺が隣に並ぶと、長門は無言で歩き始めた。まあ、よくある事だ。
「寒い?」
 しばらく歩いていると、長門がぽつりと言った。
 ああ、寒いぞ。もっと暖かい格好をしてくるべきだったな。
「そう」
 左手に何か感触。外気に触れて少し冷たいそれは、長門の右手。
「こうすれば少しはましになる」
 長門の小さな手が一回り大きな俺の手を握っている。
 しかし、長門の手もそれほど温かいわけではなく、気分的にはともかく物理的にはそれほど暖かくなっていない。
「どうせならこっちの方がいいんじゃないか?」
 長門の手を離し、指を絡め合って組み合うようにつなぎ直した。体も密着し、長門の体温がほんのりと伝わってくる。
「この方がいい」
 しばらくそのまま歩いていると、コンビニが目に入った。
「ちょっと中に入るか」
 長門と手を繋ぐことで主に精神的に暖かくはなったが、そこはそれ。暖かいところを見るとつい立ち寄りたくなってしまうもんさ。
 さすがに繋いだ手を離して店内に。フラフラと店内を歩き、ホットドリンクのコーナーを眺めるがあまりピンとこない。かと言って、カイロなどを買うのもやりすぎの感があるし……
 しばらく店内を歩いてから長門の姿を探すと、肉まんのケースの中をじーっと眺めていた。
「食いたいのか?」
 隣に行って声をかけると、長門はゆっくりとこちらに振り返り。
「肉まん」
 肉まんが食いたいって事か。
「特選」
「そうか」
 夕飯の前に食うと夕飯が食べられなくなる、という事は長門に限っては無いだろう。ちょっと高めの肉まんとカレーまんをそれぞれレジで注文し、俺達は店を出た。
「……」
 長門はもぐもぐと、俺のカレーまんより一回り大きい肉まんを頬張っている。なんというか、食っている時の長門は本当に幸せそうだ。
「うまいか?」
「おいしい」
 普通のと量以外はどこがどう違うのかわからないが、まあ、高い分はうまいのだろう。
「どうぞ」
 スッと俺の顔の前に付きだして来た。いや、そんなに顔に近付けなくてもいいんだが、まあ、ありがたく頂こう。
 パクリとそれに噛むと、口の中にジューシーな肉汁が広がる。何やら具も色々と入っている気がする。なるほど、これが特選の実力か。伊達に高いわけじゃないな。
「どう?」
「うまいな」
「そう」
 さっと目の前から肉まんがよけられた。名残惜しいが、まあ仕方ない。
 さて、俺は俺のカレーまんを食うだけだが……ん?
 おかしい。さっきより量が減ったような気がする。というか、明らかに俺のものではない歯形が付いている。
「なあ長門、俺のカレーまんを食ったか?」
「知らない」
 スッと視線を俺の方からそらした。