今日の長門有希SS
「それじゃあ、時間になったらここで集合ね。何か不思議なものを見付けたら電話するのよ!」
ハルヒの宣言で解散。俺達は二手に分かれ、これから「不思議な物」という曖昧な何かを探して街をぶらつく事になる。今日は恒例の不思議探険パトロール。今まで一度も成果のない会合であるが、ハルヒがやめようと言い出さないのだからしばらくは続くのだろう。
ちなみに今回の支払いも俺が担当した。いつもの事とは言え、痛い出費である。
「それじゃあ行くか」
今日は俺は二人のグループになった。もう片方のグループの背中を見ていた、パートナーに向かって声をかけた。
「そうね」
ぐるりと振り返り、
「今日はどこを探そうかしら」
そう笑ったのは我らが団長、ハルヒである。考えてみれば、この組み合わせはかなり久しぶりの気がするな。最近は長門と組む機会が多いため、ハルヒと同じグループになるのは三人グループで残りのメンバーがハルヒになる時だけという状態だ。確率的にはかなり低いと言えるだろう。
いや、本来ならそれほど低い確率じゃないんだが、まあ、長門がいるしな。
「時間は有限なのよ。急いで探しましょう!」
ハルヒが俺の手を引いて走り出す。俺はふうとため息をついてから、それに続く事にした。
さて、当然の事ではあるが、今まで一度も見つからなかった不思議な物がそう簡単に見つかるはずはない。そもそもハルヒに不思議な物を見せないようにしようと陰で努力している奴らもいるのだ、もし何かがあってもうまく隠蔽してくれるだろう。
「ちょっと休みましょ」
走りっぱなしでさすがに疲れたらしい。いや、ハルヒは疲れていないのかも知れないが、俺が疲れているってわかってくれたか。
俺達は商店街のベンチに腰掛ける。いきなりハルヒが立ち上がるとトコトコと歩き出した。自動販売機で何やら買って、こちらに戻ってきた。
「はい」
ハルヒはコーラの缶を放り投げた。奢ってくれるのか? 珍しいな、ありがとよ。だがな、炭酸のものをそんな風に扱うな。
「大丈夫よ」
プシュッとハルヒが自分の分を開けた。そちらは炭酸飲料などではなく、国民の誰もが最低一度は飲んだことがあるんじゃないかってくらい有名な乳酸菌飲料だ。白に水玉の模様がトレードマークだ。
ハルヒは缶を傾けてゴクゴクと飲んでいる。さっき店で飲み物を飲んでいたっていうのに、そんなに冷たい物ばかり飲むと腹を壊すぞ。また後で、何か飲むんだろ?
「昼は食事に決まってるじゃない」
その料金が俺の支払いにならぬよう祈りつつ、俺はハルヒから渡されたコーラを開ける。
「うわっ」
予想通りというか何というか、コーラが吹き出してしまった。手にかかり、べたべたして気持ち悪い。どっかで手を洗いたいもんだ。
「……」
ハルヒが何やら沈黙しているのに気が付いた。いつもならこんな時は「しょうがないわね」とか小馬鹿にしそうなもんだが、俯いて押し黙っている。
「ハルヒ、どうした?」
「汚れちゃった」
ハルヒにしては珍しく、うろたえている。よく見てみると、ハルヒの白いワンピースにコーラがかかっていた。それほど広範囲ではないが、目立つような位置だ。
「どうしよう、シミになっちゃう……」
そもそもの原因を作ったのはハルヒであるが、こんな時いつもなら怒って俺につっかかって来そうなもんだが、こんなしおらしいハルヒは珍しい。
よっぽどお気に入りの服なんだろう。
「ごめん。キョン、昼までに戻ってくるから着替えてきていい?」
駄目だと言えるような状況ではない。俺は黙って首を縦に振った。
「じゃあ、あたしはいったん帰るけど、あんたは他のメンバーと合流して探してなさいね!」
最後だけびしっと団長らしく言ってから、ハルヒはバタバタと走って行った。スカートでよくあんなスピードで走れるもんだと俺は感心した。
ハルヒから指示されたので、俺は長門に電話して他のメンバーと合流する事にした。
「やあ、お待ちしていました」
そこはいつもの店であり、三人は飲み物を飲んで待っていた。
もしや、歩き回るのが面倒でずっとここにいたんじゃあるまいな?
「違いますよ。キョンくんから電話が来たから、ここで待とうって話になったんです」
古泉なら単なる言い訳に聞こえるが、朝比奈さんが言うなら信用して良いだろう。
「……」
長門はもぐもぐとパフェを食っていた。他の二人はハルヒが戻ってきてから飯を食うのだと思うが、長門は今食って大丈夫なのか?
「後でまた食べる」
そうか。
長門の隣に座り、ウェイトレスを呼んで水を頼む。申し訳ないとは思うが、先程コーラを飲んだばかりなので仕方ない。
だが店側は俺達が昼間で入り浸るのをわかっているのか、特に何も言われる事はなかった。まあ、迷惑な客だとは思うがお得意さまではあるしな。
しばらくして戻ってきたハルヒは、すっかりテンションが戻っていた。
「午前中はちゃんとパトロールできなかったから、午後は頑張るわよ!」
解放される事になったのは、いつもより遅い時間だった。
言いたくはないがついこの言葉が出てしまう。
やれやれ。